第五章 ソロバトル
第33話 勇者が終末の日を招くのか
街道から外れて川沿いに進んでいたバートランドは、寝ずに一夜を明かした場所にサンダーボルト号を留め置いた。
そして険しい山道を掻き分けて、程なくして目標と思しき遺跡に到着する。
どうやら入り口には魔物が二体監視に立っているようだ。一体は空を飛び、もう一体は体格が小さい。
今回バートランドは白の魔法剣を携えてきた。長期戦になることを想定したからだ。白の魔法剣は、赤の魔法剣のように攻撃的には使えない。だが敵に傷を負わせると魔力が蓄積して剣を持つ自らの傷を癒やせる。
〈治癒〉に使う魔力を消費しないので、長期戦を想定すれば白の魔法剣が最適だろうとバートランドは判断したのだ。
本来は自分の色の魔法剣しか使えないのだが、バートランドは“虹の魔力”の持ち主なので、色を選ばない。
それに白の魔法使いだと敵に思われれば、他の魔法への対策をとられずに出し抜けるはずだ。
だが、なんでもかんでも剣で解決しようとすると、いつ折れるかわからない。
入り口をくぐるための今回の戦いでは、遠くから弓矢で倒してしまうに限る。外すと仲間を呼ばれかねないので、ゆっくりと弦を引き、飛んでいる魔物に狙いを定める。
一射したのちすぐ次の矢を放たなければならないので、二本の矢を用意していた。
魔物がこちらに気づく前に飛んでいる一体めがけて第一射を行ない、確実に倒れたのを確認しながら小型のもう一体へ二射目を放つ。
二体とも仕留めて動かなくなったのを確認してから忍び足で入り口に近寄り、倒した魔物を草むらへ引きずって隠した。
これで敵に気づかれる可能性を減らしておく。もし気づかれて仲間を呼ばれたら、せっかく弓矢で倒した意味がなくなってしまうのだ。
隠し終えたら、入り口をくまなく探索してみた。
この遺跡が誰かの住居だった可能性もあり、主人の名がトラップを解除するキーワードになっている場合も多いからだ。
そうやって調べてみると、外見がどことなく前回探索した遺跡に似ているような気がした。
そして
そんな感想を抱きながらも、さっそく遺跡の内部を調査するべく準備を始めた。
リュックの中からたいまつと着火具、そして金属糸を取り出した。魔力温存のため赤の魔法〈たいまつ〉は用いず、探索道具のたいまつに火を灯した。
そして細くて丈夫な金属糸を腰にまわす。これが来た道を引き返すための命綱となる。いくら最短距離だとしても、近道をするよりも来た道を戻るほうが遥かに安全だからだ。
本来なら緑の魔法で〈蔦〉を伸ばして同じことをするのだが、〈たいまつ〉同様魔力の消費を考慮して探索道具を用いることにした。
こういった探索道具の使い方は授業で何度も習っているため、熟達した探索者のように滞りなく準備が進んだ。
「さてと……。中でなにが待っているのか。宝箱は開けてみるまで中身がわからない。遺跡も探索しなければなにが待っているかわからない。では、入ってみますか」
金属糸の先を入り口の柱にくくりつけてから、中へと忍び込んだ。
強行軍で追いかけてきたタリッサ、スキルト、ラナ、クラウフォーゼの四人と在校生パーティー三組は、木に係留されている馬車を発見した。
「間違いない。これはサンダーボルトだ。だとすれば、じきに追いつけるということだな」
「燃えカスを確認したら、今朝出発したみたい」
スキルトの見立てに在校生パーティーの赤の魔法使いたちが同意した。
「しかし、バートランドは徹夜で先に進んだのだろう。途中でへばって倒されているんじゃないのか?」
首席パーティーの赤の魔法使いガ発した言葉にカチンと来たのはタリッサだった。
「あなたたちがバートランドを認めないから、こんな危険を冒さなければならなかったのよ! もし“虹の勇者”を失いでもしたら、あなたたちが“終末の日”に立ち向かう必要があるわ。その覚悟を持って彼に歯向かったのではなかったの?」
「どうせ“終末の日”なんて想像の産物にすぎないだろう? もし“終末の日”が近いというのなら、その兆候が各地で観測されてしかるべきじゃないのか」
「なぜ“終末の日”がじわじわ押し寄せてくるとお考えなのでしょうか。ある日突然一気に終末に巻き込まれている可能性もあるのですわ。その可能性を否定する材料をわたくしたちは持ち合わせておりませんが」
クラウフォーゼがたしなめるような口調だ。
「“終末の日”がどのように訪れるのかは誰も知りません。皇族も神殿も学園も知らないのです。であれば、さまざまな可能性を想定して準備を怠らないようにするのが、わたくしたち探索者の義務ではありませんか」
「ここで時間を潰すのは惜しい。今は一秒も千金の価値を持つ。さっさとつかまえて連れて帰るぞ」
ラナが冷静に状況を見ようとしているが、焦りは隠せなかった。
「ラナ様のおっしゃるとおりだな。“虹の勇者”を失ったら後悔先に立たずもいいところだ。今は彼を失わないことに専念するべきだろう」
在校生の首席パーティーの主将が答える。
「しかしだな。あいつがいなければ、そもそも“終末の日”が来ないかもしれないんだぞ。危険な要素には違いない。あいつが死ねば“終末の日”が来ないのであれば、死んでくれたほうが世のためだ」
その言葉にスキルトが黙っていなかった。
「なぜ“虹の勇者”がひとりでなんでもできるなんて思われなきゃならないの! もし死んでしまったら、あなたたちが命を捨てて“終末の日”に立ち向かわなければならないの! その覚悟は当然あるんでしょうね!」
「スキルト、それは言われずともわかっているだろう。曲がりなりにも学園の上位三組だぞ」
「でも!」
「今は一刻も早くバートランドをつかまえるべきだ。ここで言い争っていてもなんにもならん。皆ここで馬車を降りてただちに遺跡へ向かうぞ。異存はなかろうな!」
ラナが皆を圧迫するかのような声色で叩きつける。
「ではただちに出発の準備を整えろ。五分で出発するぞ!」
「はいはい。ラナ様のおっしゃるとおりで」
「無駄口を叩くな。遅れたら待たずに置いていくだけだぞ。考査に響くから覚悟しておくんだな」
四台の馬車からそれぞれのパーティーが荷物を降ろし始めた。
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