第48話 虹の向こうへ【物語完】
魔界を“虹の剣”で救ったバートランドたちは、生まれ変わった魔界を見てまわる暇もなく人間界へと帰ることとした。
「これからはわれも貴様らと行動をともにしよう」
アルスターは魔界が救われたので任務は果たしたと思われたが、バートランドたちと帯同することに決めたようだ。
バートランドを真に“虹の勇者”と認めたことで、最高の黒の魔法使いとして力を発揮したいと考えたのだろう。また仮に人間界が“終末の日”で壊れて混沌へと
「われは“虹の勇者”が求める黒の従者として、これからもメンバーに残ろう。魔界だけを考えて人間界を蔑ろにするのでは、“虹の勇者”の従者として信義にもとるからな」
アルスターは魔族であり黒の魔法の達人でありながら、人間界の成り行きにも気を配れる。このような魔族は稀有だろう。
“虹の剣”は青、赤、緑、白だけでなく黒が揃わなければ完全な力を発揮できない。もしアルスターのような魔族が、人間界の“終末の日”を防げなければその余波はせっかく救った魔界にも及ぶはず。
その意味でもアルスターは自らの意志でバートランドの指揮下に入るのである。
「バートランド、アルスターも五人目の従者と認めていいんだよね?」
タリッサの疑問をクラウフォーゼが答えた。
「黒の魔力は魔族でなければ扱えませんし、他に魔族の知り合いもおりませんから、アルスター様に入っていただけるととても助かりますわね」
「魔族が仲間って、なんか不思議な気持ちよね」
スキルトの言い分もわからないではない。
「まあ、人間界を補修する“虹の勇者”の働きには、黒の従者が不可欠だ。もしバートランドに害をなそうとするならば、私がアルスターを剋せばよいだけのこと」
ラナがアルスターを牽制する。
だが、アルスターが加わってから今日までを考えると、それが杞憂であることは明らかだ。
アルスターは自らが黒の従者を買って出て、“魔王”としての職務は弟に委譲してきた。彼女の話では“虹の勇者”に助力する五人の従者がすべて女性であるのにも、意味があるのだという。
男女の関係はプラスとマイナスなのだという。“虹の勇者”のバートランドが男性つまりプラスであれば、五人の従者を女性つまりマイナスで揃えなければ、互いに引き合わないのである。
もしバートランドの従者にひとりでも男性がいれば、従者同士で力がくっついてしまい、“虹の勇者”へすべての力を集められない。
だから“虹の勇者”が男性なら従者は女性にしか務まらないのである。
そして過去“虹の勇者”はすべて男性であり、従者もすべて女性だったのだ。
魔法学園では主将が男性ならメンバーは女性で固め、主将が女性ならメンバーは男性で固めている。“虹の勇者”の伝説から定められたものだが、図らずも真実をうがっていたのである。
「アルスター、いいんだよね? 君が僕の従者で」
「頼りにしてくれてかまわん。なんなら身を捧げたってかまわんぞ」
「それはちょっと怖いな。従者とは関係を持つべきではないと思うし」
「なにを言っておる。“虹の勇者”とその従者は触れ合うことで互いの魔力を増大させるのだ。まあハーレムだと思えばよかろう」
「それが怖いんだよなあ。ひとりと関係を持ったら残る四人とも公平に接しないといけなくなるし」
まあ、関係を築かなくても魔界は生まれ変わったのだ。それなら人間界もこのままの関係でなんとかなるだろう。「ハーレム」になんてする必要はない。今のところは、ではあるが。
人間界へと戻ってきた六人は、さっそく魔法学園を訪れて学園長と四人の導師と面談した。
「というわけで、“虹の剣”と五人の従者がいれば、“終末の日”を迎える前に対処が可能なのです」
バートランドの報告を学園長が確認した。
「ふむ、なるほどな。バートランドくんたちが体験してきたことなのだから、われわれは信じるほかないが。できれば次は私たちにその場を見せてくれると理解が早いだろうな」
「魔力を整えるために、今日は館で一泊し、明朝に近くの“虹の神殿”へ赴きます。そのときに付いてきていただけたらと存じます。
「伝説の“虹の勇者”の働きをこの目で見られるわけじゃな。楽しみなことじゃて」
赤の導師は興味津々だ。
「“虹の神殿”は人間界の各所に存在しています。それらはすべてアルスターの息のかかった者たちが守護しておりますので、これからは各地を巡る遺跡探索パーティーに内部の探索をしないよう要請できるでしょうか?」
「“虹の紋章”が描かれている遺跡だな。それならすぐに手配しよう。無駄な殺生をせずに済むからな。それに“虹の神殿”以外の遺跡は今までどおり探索できれば、彼らの生活も成り立つだろう」
青の導師から快い返事をもらった六人は顔を見合わせた。
「“虹の剣”がバートランドを“虹の勇者”と認め、そのバートランドが五人の従者を選んだのだ。これからの世界を守るのは君たちだと信じておる。今日はもう休むとよい。明朝、出立前に学園へ寄ってくれ。在校生から見学したい者を募っておくし、少なくとも私たち五人は君に託したことが間違いなかったのか査定したいからな」
「“神の意志”で選ばれた“虹の勇者”を査定とは。そんなに学園が偉いのか?」
「アルスター様のおっしゃるとおりですな。私たちは“虹の勇者”の偉業を見つめるだけで終わることでしょう」
「まあ、アルスターの言いたいこともわかるけど、今後の“虹の勇者”育成にも携わる組織であることは確かだから、とりあえず見てもらうのは悪くないんじゃないかな」
バートランドは学園側をフォローした。
「それでは明朝にまた合うこととして、今日はもう館へ戻って疲れをとりたまえ」
学園長ら五人に一礼すると、バートランドたちは専用の遺跡探索者の館へと歩んでいった。
すでに魔界は救われているが、人間界はまだどこも救っていない。そのための出陣は早ければ早いほうがよい。
遺跡探索者の館で一泊したのち、拠点と定めた“虹の神殿”に赴いた。
ここから“終末の日”が訪れる前に、“虹の勇者”と五人の従者は各地に残る“虹の神殿”へと赴いて世界を補修していくのだ。
この世界が“神の後継者”である“虹の勇者が見た夢の世界”なのであれば、“虹の魔力”が持つ無限の可能性をもって蘇らせることもできるはずだ。
バートランドたちはこれからも世界を巡って、「世界を塗り替え」ていくのだった。
─ 了 ─
励磁で世界の終末を救うハーレム崩れの虹の勇者 カイ艦長 @sstmix
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