第19話 終末の日とは
赤の導師の言葉に従い、各色の導師から卒業許可証を受け取った。バートランドの手中には四色の卒業許可証が収まっていた。
それが済むと彼らはその足で学園長室を訪れた。
先客がいたようでしばらく待合室にいたが、来客が帰ると執務室へと招かれた。
「先ほど赤の導師から知らせがあった。君たちの卒業許可証を改めて確認させてほしい」
皆はそれぞれ卒業許可証を掲げてみせた。それを確認すると学園長は大きく頷いた。
「これからいささか時間を要する。立ち話をするのもどうかと思うので、まずはそちらのソファへ座っていただこう」
学園長室に長居するとは思わず、顔を見合わせてしまった。
「なに、これから君たちが目指すものについて説明しておきたいだけだよ」
「はあ、それでは失礼致します」
バートランドたちはゆっくりとソファのところまで移動する。
学園長が座るだろう位置を囲むように五人は着席した。
執務机に書類を伏せて、学園長がソファに歩み寄った。腰を下ろした学園長が口を開く。
「君たちはどれほど伝説の“虹の勇者”について知っているのかな」
「救世主だと伺っておりますが」
バートランドが短く返した。
「うん、まあ救世主には違いないのだがな。わが学園の創設者は“虹の勇者”の従者だったと言われておる。実際緑の従者は皇族となり、白の従者は神殿を築いて人々を導いた。残された赤と青の従者がわが学園を創設したのだ」
「ということは、赤の導師様と青の導師様は“虹の勇者”に仕えた方の直系、なのでしょうか?」
「そういうことになるな。ひときわ魔法に秀でた者が後を継ぐとして、やはり血統で才能の高低が決まる部分も確かにある。君たちの中でもラナ様やクラウフォーゼ嬢のように皇族と神殿の直系であるわけだ。スキルトもタリッサも、そしてバートランドくん。君も血統で才能が定まったわけではない。突然変異のような現れ方をしているのは確かだ」
バートランドとタリッサは商家の出であり、スキルトも養護施設育ちでタリッサの幼馴染みなので特別血統がどうというものでもなかったようだ。
「君たちは“虹の勇者”について知る権利がある。とくにバートランドくん、君は伝説の“虹の勇者”となることを期待されている以上、これまでの“虹の勇者”がどのような人物で、どのような判断をしてきたのか。それを知って、これから先の判断材料にすればよかろう。もちろん君たちの心がけ次第ではあるがな」
「私とクラウフォーゼは幼い頃から教え込まれておりますので、とくに必要はないかもしれません。ですが、学園に伝えられていることはそれと同じかどうかの確認はしておきたいところです」
学園長は大きく縦に首を振ると、執務室の隅にある金庫を開けているようだ。そしてそこから取り出したのは、大きな紙であった。
「君たちはこれを見たことがあるはずだが」
ソファのローテーブルに置かれた紙を見て皆が驚いた。あの正体のわからないアイテムとそれを見つけた遺跡の壁とに描かれていた紋章が描かれていたのだ。
「この紋章を青の導師から見せられたとき、私はその素性を誰にも漏らしてはならない、と口止めした。この紋章こそ伝説の“虹の勇者”を象徴するものだからだ。世界が危機に瀕したとき、いづこともなく現れるというこの紋章は、新たな“虹の勇者”の力量に応じて現れるという」
ということは、バートランドの力量が高まったから、この紋章が現れてあのアイテムへと導いたのだろうか。
「しかしあの遺跡は先遣隊がすでに探索していたはずですよね? そのときにあの紋章はなかったのでしょうか?」
その疑問は皆が思っていたことだろう。
「いや、先遣隊からすでに紋章の存在は報告されていた。しかし“虹の勇者”の紋章であることは学園長である私以外知る者はおらんのだ。君たちが青の導師に鑑定を任せたあのアイテムも、いずれ“虹の勇者”として行動するときに役立つものに違いない。あれを活かせるのは“虹の勇者”しかいないのだから」
「質問よろしいでしょうか。あのアイテムはいったいどのようなものなのでございますか?」
クラウフォーゼの疑問はバートランドも思っていた。あれの素性がわからないことには、使いこなすこともできないからだ。
「伝説の“虹の勇者”に関連したアイテムであることは確かだが、どのような役に立つのかは使ってみなければわからない、というのが私の判断だ。知っているのに教えないわけではないぞ」
そのひと言で張り詰めていた場の雰囲気が和んだ。
「“虹の勇者”の真の姿は、“虹の勇者”でなければわからないとされている。そこが厄介でな。複数の魔法適性つまり“虹の魔法”使いにしか、“虹の勇者”のことはわからないのだ」
「“虹の魔法”使いだけが……。ですが、前の“虹の勇者”は百年以上前に現れたのですわよね?」
「そのとおりだ、クラウフォーゼ嬢。バートランドくん、君はこの紋章を見てなにか思い至ることはないのかい? おそらくだが、この紋章は“虹の勇者”への覚醒を促すだけでなく、進むべき道を照らす役割があるのではないか、と私は考えておる。つまり君はこの紋章に導かれてこれから先、進んでいかなければならない。約束された“終末の日”を回避するためにも」
「“終末の日”、ですか」
バートランドは魔法学園の授業で聞いたことがある。たしか世界が崩壊する日のことだとされていたはずだ。
「世界が崩壊してすべてが混沌に帰すと言われておりますわね、学園長」
クラウフォーゼが答えると、バートランドも深く考え始めた。
「世界の崩壊、ですよね。しかしここ数百年は“虹の勇者”の活躍で、実際に世界が崩壊した例はないのですよね? 今もこの世界は存在していますし」
「この世界が、正しく過去からつながっているのであれば、だがな」
ラナは事もなげに言ってのけた。しかし、それは看過できない問題であった。
「何者かが作り上げた世界だとでも言うのかい、ラナ?」
「あくまで可能性の問題だ、バートランド」
それにしては、ずいぶんと物騒な可能性である。
もしかしたら、ここは誰かの見た夢の世界なのかもしれない。それを証明できる人物がいない以上、机上の空論ではあるのだが。
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