第37話 到着
ラナ、タリッサ、スキルト、クラウフォーゼの四人と在校生パーティー二組が案内人に伴われて遺跡へと急行していた。
遠めからだが木々の狭間から遺跡が覗けてきた。遺跡の中からと思われる咆哮を耳にしながら走り続ける。
あと少しで入り口までたどり着けるところまで来ているはずだ。
そうしてようやく遺跡の入り口が見渡せる開けた場所まで到着した。
「よし。クラウフォーゼ、よく頑張った。魔力の回復薬を飲んで呼吸を整えてくれ。クラウフォーゼの準備が整い次第、中に入るぞ!」
在校生パーティー二組も程なくして到着し、白の魔法使いが魔力の回復薬を飲んでいる。
案内人の教員が二組のパーティーに指示を出した。
「遺跡の中は、人数が多すぎると立ち回りしづらいわ。だからここで次席パーティーが外へ飛び出してきた魔物を狩る係、首席パーティーが彼女たちとともに中へ入る係に分けます。文句はいっさい聞かないわよ。ただでさえバートランドがひとりで奮闘しているんだから。早く合流しないと危険だわ」
「そもそも俺たちはやつの査定でここまで来たはずなんだがな」
「いくら“虹の勇者”でもひとりでなんでもできるとは思わないことね。仮にあなたたちがひとりで遺跡を探索するなんて真似は絶対にさせられないわ」
首席パーティーの主将が口を開いた。
「ですが、一度は先遣隊が中を確認しているのですから、敵なんてそんなにいないでしょうに」
案内人がチッチッチッと舌を鳴らした。
「あなたたちは実戦を知らないのよ。遺跡には野獣や魔物が棲んでいて、仮に一度全滅させたとしても、新たな野獣や魔物がそこに集まってくるものなの。なぜなのかはわからないけど、以前より強い魔物が棲み着いた例も数多いと聞くわ」
そのとき、グオーッとふたつの咆哮が鳴り響いた。
「この声が聞こえるということは、バートランドはまだ戦っているようね。クラウフォーゼ嬢、魔力の回復は済みましたか?」
「はい、わたくしはだいじょうぶです。一緒に中へ入っていただくパーティーはどうですか?」
「もうちょっと待ってくれ。ポーションがもうひとつ必要だ」
「これだから素人を連れてくるのは嫌だったんだ」
ラナが苛立ちを隠さない。今すぐにでも飛び込んでバートランドとともに敵を駆逐したい衝動に苛まれているようだ。
確かに黒の魔物が潜んでいるのなら、緑のラナは十二分に実力を発揮できる。緑を黒を剋すからだ。
まあバートランドも緑で戦っていれば、それほど苦労はしないと思われたのだが。実際彼は白の魔法使いとして戦っているとは夢にも思わなかった。
首席パーティーの白の魔法使いが二本目のポーションを飲んで呼吸を整えている。もうじき準備が整うはずだ。
大きな唸り声と破壊音が次々と沸き起こっている。
「しかし、どれほどの魔物と戦っているんだ、あいつは。この音、尋常じゃないぞ」
雄叫びと破壊音が響き渡るにつれ、在校生パーティーは顔色がどんどん悪くなっていく。
「俺たち、本当に入らないと駄目なのか?」
「そのためにバートをひとりで探索に出させたんでしょ! その責任くらいとってもらわないと、あたしたち納得できないんですけど?」
スキルトの露骨な嫌味が在校生パーティーに突き刺さる。
「フロントは私たちがとる。お前たちはただ付いてくるだけでいい。足手まといにならないことだけを考えろ」
ラナの言葉にタリッサが応じた。
「まだ卒業生でもないから、無理して戦う必要はないわ。私たちの邪魔にならないように遠くから見ているだけでかまわない。でもバートランドが戦っている姿だけは目に焼き付けておくのね」
元はといえば在校生パーティーが不平を鳴らしたから生じた状況なのだ。その責任くらいはとってもらいたい。少なくともバートランドの戦いぶりだけは見逃さないように釘を刺しておく。
案内人の教員が中へ入る在校生パーティーに確認をとり、準備万端整ったことを確認した。
周りを警戒していたタリッサが入り口の柱に結わえ付けられた金属糸を見つけた。
「この金属糸、おそらくバートランドのものよね? 他のパーティーが残したものの可能性もありますけど」
クラウフォーゼが金属糸に近寄る。
「新しいもののように見えますが……。少しお待ちください」
金属糸に手を触れて瞳を閉じた。
「……。これは……バートランド様のものに間違いありませんわ。相手は大型の魔物が二体。安心できる状態ではありませんわ。一刻も早く入りませんと」
そのときスキルトが入り口上部にある紋章に気づいた。
「あの紋章があるってことは、ここも“虹の勇者”関連の遺跡ってことなのかな?」
「おそらくそうだと思うけど。バートランドがなにか“虹の勇者”関連の宝物を見つけているのかな。だからここまで戦えている、とか?」
タリッサの疑問もわからなくはない。
「でも百年以上前の遺物だぞ。そんなに破格の性能をしているものがゴロゴロしているとは到底思えん。ここはアイテムではないものが眠っているのではないか?」
「たとえば?」
「そうですわね。“虹の剣”を使いこなすための実戦演習の機会を与える、のようなものかしら」
「なるほどな。それならバートランドがここまで持ちこたえている理由にもなるか。そうだと信じるしかないが」
ラナは兜を脱いで、髪をほどいた。今のうちに激しい戦闘でも乱れないように結い直す。
案内人はその様子をじっくりと見ていた。
「それじゃあ皆、中に入るわよ。次席パーティーはここで逃げ出してくる魔物を倒すように。危ないと思ったら逃げてもかまわないわ。文句を言う人はいないから。まだまだ卒業するレベルには達していないんですからね」
次席パーティーはどこかぎこちなさを感じさせる挙動をしている。
やはり実戦は空気の張りが違う。ピリピリとした神経質な雰囲気を醸していた。
「首席パーティーはラナ様やクラウフォーゼ嬢の後を付いてきてください。無理に戦う必要はありません。あと、今回はバートランドのところまで急ぎますので、地図は作りません。トラップを避けるために彼の金属糸をたどっていきます」
兜をかぶり直したラナが盾を構えて剣を抜いた。
「さあ行くぞ! いつまでもバートランドひとりに戦わせるわけにもいかんからな」
案内人を先頭に、四人と一組のパーティーが遺跡の中へと入っていった。
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