第39話 岐路

 敵を倒しながら金属糸をたどって先へ急ぐ四人と案内人そして在校生首席パーティー。


「この構造、前回の遺跡とそっくりですわね」

「そうね、五芒星の形になっている。となれば奥の間が目的地ってことになるんだけど」

「問題はトラップね。おそらく最短距離に仕掛けられていると見ていいんじゃない?」

 タリッサの言葉にスキルトが継いだ。


「どうしますか? トラップ覚悟で最短距離を突っ切ってみますか?」

 案内人が判断を委ねてきた。


 ラナは少し悩んだ。

「いや、金属糸を追うほうがよかろう。そもそもそれほどまでに大きな遺跡ではないし、トラップの危険を考慮すれば、発動させるよりもこのまま追ったほうが結果的には近道になるはずだ。あとはバートランドがもってくれれば」

 大きな咆哮がふたつあがる。

 敵の数が増えているわけではなさそうだし、ここまでバートランドが持ちこたえているのは確かだろう。


「それではここから駆け足になさいますか? 〈回復〉の準備はできておりますわ」

「そうだな。ここは二部屋目。ここからダッシュすれば、残り三つの部屋をまわるのも簡単なはず。お前たちはどうする? 戦わないのなら魔力の出し惜しみをしている場合じゃないぞ」

 ラナは鋭い視線を投げかけた。


「つ、付いていきます! 後れて敵と戦う羽目になったら意味がありませんし」

「なら白の魔法使い、〈回復〉を使ってのダッシュだ。ここに来るまでに使い慣れているだろう。後れずに付いてこいよ。じゃあクラウフォーゼ、頼む」


 魔法が発動し、疲れが癒えていく。ここからはさらに加速して部屋をまわらなければならない。ラナの掛け声とともに、全員が全力疾走を開始した。


 三つ目の扉を開けると、そこから小鬼が二十ほど待ち構えていた。床にはほぼ同数の小鬼の遺体がある。どうやらバートランドはこれだけの敵をひとりで倒しきったらしい。

 ラナは負けられぬとばかりにメンバーに発破をかけて、「茨の鞭」を発動した。そうして敵を拘束しながら他の個体へと剣を走らせていく。


 黒に剋される青のタリッサは防御に徹し、黒を生む赤は敵の行動を制限する魔法を発動させる。攻撃の主力は黒を剋す緑の“姫騎士”ラナと、黒から力を奪い取る白の“聖女”クラウフォーゼがとっていた。

 ラナは魔法を最大限活用し、つねに全力で敵を翻弄し続けた。

 その姿を見ていた在校生パーティーで緑の魔法を操る主将と緑の騎士が剣を抜いて戦線に参加した。

 これで小鬼たちはあっという間に数を減らしていく。




 奥の間にいるバートランドも〈回復〉と〈光の刃〉を同時発動させながら、回避とカウンターに専念している。

 〈光の刃〉は刀身に白の魔力を帯びさせて黒の魔力を吸収するために用いる。

 そして“虹の剣”にじっくりと黒の魔力を蓄え、敵に気づかれないように〈修復〉の魔法を試していく。白ふたつと黒の同時発動で、敵の目を欺いていく。


「ほう、ふたつの魔法の同時発動もできるのか。なかなかに骨のある男だな。だが、それくらいではこの魔物には勝てまい。貴様よりも確実に強い黒だからな」


 この場にいないから異変に気づいていないのかもしれない。

 もしこの場に黒の魔力を使う者がいれば、バートランドから垣間見える黒の魔力に感づいただろう。


 斧と大剣が床や壁をえぐり、バートランドがそこの〈修復〉を試みる。“虹の剣”に溜まった黒の魔力をわずかに解放していく。

 壊れた壁に手を触れて黒の魔力を注ぎ込む。わずかに壁が修復されたのを確認してから敵の追撃をさばいた。


 長い間の戦闘により少しずつ黒の魔力を使いこなせるようになっていくが、あまり派手に発動させると相手の女に手のうちがバレかねない。気付かれないように白に隠しながらである。

 ここからは剣に集中するべきだろう。じょじょにではあっても確実に敵を追い込めば、いずれ勝負を決めに来なければならなくなるのだから。


「クックックッ。仲間がやってきたことを知って、ようやく歯向かう気になったようだな。面白い。貴様の剣術がどの程度のものなのか。試してやろうじゃないか」


 二体の影の魔物が縦に並んで挑んでくる。斧の魔物はこれまでの力任せな大振りから、ゆっくりとしかし正確な一撃を飛ばす。

 バートランドは小さくさばくと、斧の引くタイミングに合わせて敵の懐に飛び込み、出力を強めた〈光の刃〉を胴へ叩き込んだ。

 遺跡を震わせるほどの悲鳴をあげて魔物が倒れる。どうやら黒の魔力を溜め込んでいたために、白の魔力が底上げされたようだ。


 黒は白を生む。理はやはり真実なのである。


 だからこそ黒の魔物には緑の魔法が有効なのだ。白の魔法縛りで戦ってはいるものの、今回試している黒の魔力はじゅうぶん戦力になっている。

 このまま“虹の剣”が黒の魔力を吸い続ければ、白の魔法がさらに威力を増すことになる。


「やはり実力を隠していたか。ひとりで遺跡探索をするような男だ。それなりに実力はあるのだろう。どうだ、私のために働いてみないか?」


 どこまで手のうちがバレているのかはわからない。だが、黒の魔力を操っていることにはまだ気づかれていないようだ。奥の間の中に黒の魔力が満ちてくるのを感じた。

 だからこそ、バートランドが溜めている黒の魔力はさらに隠匿されることとなる。


 これはチャンスだ。


 黒の魔力は白の底上げにもつながる。しかも白の魔法剣での攻撃に黒の魔力が付与されているなど考えもつかないはずだ。たとえ白の魔力が敵の黒の魔力と同等であっても、彼の黒の魔力が底上げされていれば負けようはずもない。

 問題は、いつ敵の女に黒の魔力を気づかれるかだが、自ら奥の間を黒の魔力で満たしているので、おそらく気づかないはずだ。

 強い黒が白から力を奪い取るのが狙いだろう。しかし白の魔法使いが黒の魔力も操っているなど想像すらできない。


 “虹の勇者”とバレないかぎり、なんとかしのぎきれる。

 バートランドはその腹づもりで白の魔法剣を構え直した。そして大剣を振るう一体に狙いを定めて突撃する。


 大剣を片手で操る豪腕相手に、まずは魔法剣を滑らせてスキを突こうと想定した。

 しかし、大剣の一撃は破壊力が抜きん出ており、白の魔法剣を真っ二つにへし折られてしまった。


 このまま折れた魔法剣を使い続けるか、〈修復〉をかけてくっつけるか、使い方のわからない“虹の剣”を試してみるか。

 三択を迫られた。



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