第45話 黒の特訓
学園寮に残してあった私物を下賜された館へ運び込むと、メンバーは慣れないベッドで一夜を明かした。
朝起きて食事をとると、六人はさっそくここから近い“虹の神殿”へとやってきた。今日からは黒の魔法の習得に励むことになる。
まずは黒の魔力を操れるようになる訓練からだ。アルスターに背中を触ってもらい、黒の魔力の流れを確認していく。他の魔力もそうなのだが、直接肌が触れると双方の魔力が底上げされるのだ。
まるで砂鉄に磁石を近づけると、くっついて砂鉄が磁化するのに似ている。
「ということは、私たちは砂鉄なのか? 磁石なのか?」
ラナは不満げだ。
もし砂鉄と言おうものなら、彼女たちは猛反発するに決まっている。かといって、“虹の魔法”使いとしては自分が砂鉄というわけにもいかない。
「ラナはずいぶんとせっかちだな。私たちは五色の磁石。そしてバートランドはすべてを引き寄せる強力な磁石なのだ。だからわれらはバートランドと磁力のやりとりをして互いが強まる。至極当然だろう」
「磁石ねえ。確かにバートが魔法を使うときに引っ張られるときがあるけどさ」
「あれが磁石の働きかといわれると……ねえ」
スキルトとタリッサも今ひとつイメージが湧かないようだ。
「そういえば、魔法の組み合わせで、すんなりと混合魔法が作れる組み合わせもあれば、弾かれて弱まってしまう組み合わせもございますわよね。くっつく、弾かれる。これが磁力によるものなら、納得がいくというものですが」
「ほう、さすが白の魔法使いクラウフォーゼ。世の理がわかってきたようだな」
「ありがとうございます。では、どの組み合わせがどの磁極で、くっついたり弾かれたりするのでしょうか?」
「われは黒だから言うが、黒は緑と青とは反発し、赤と白とはくっつく。つまり“虹の紋章”で隣会う色はくっつき、離れているものは反発する、というわけだ」
道理で〈シャワー〉は反発して弱まるものの〈お湯〉にできるのに、そこに白の〈浄化〉を加えて〈泡風呂〉を作ろうとしたら赤が単に青だけでなく白とも反発するからなかなかうまくいかなかったわけか。
バランスはよくてもかなりの大出力が必要なのもそのためなのだ。
「ということは黒は赤と白にはくっつくのですわよね。どんな魔法が生み出されるのでしょうか?」
「そこまでは知らん。というより知る必要もない。バートランドは自身の中に五色の魔力を有しているから、通常なら反発する組み合わせでもまったく弾かれることなく発動できるからな」
「それってバートがズルしているってこと?」
スキルトは面白くないと言わんばかりの表情だ。
「ズルではないな。それが“虹の勇者”の資質なのだ。反発する組み合わせもひとつにまとめる能力は、“終末の日”に対抗するのになくてはならん資質だ。もし“虹の勇者”を失えば、世界中の魔法使いを総動員し、反発して弱められる魔力の底上げを図らねばならん。絶対量が増せば“虹の勇者”の代わりにはなろう」
アルスターがここまで五色の魔力と“虹の魔力”に詳しいとは思わなかった。確かに導師として請われるはずだ。
「まあそれはいい。バートランド、今から黒の魔力を流し込むから、自身の“虹の魔力”で感じ取って増幅させてみろ」
アルスターが黒の魔力を放出すると“虹の剣”がそれを吸収し、バートランドの内に秘められた黒の魔力を喚起する。そうやって黒の魔力を感じ取り、呼び起こし、使用するのだ。
ただ、他の色の魔法も使えるので、黒の魔法の習得も並行して行なわれている。すでに習得済みの〈修復〉だけでなく身を守ったり家屋を作る際に用いる〈土塀〉や、極大魔法の〈崩壊〉といった魔法を習得していかなければならない。
すべての魔法を使えなくても、どういう魔法があるのかくらいは知っていないと有効な魔法は使えないし、多色混合の連想もできない。
とくに世界で唯一“虹の勇者”だけが用いられる五色混合魔法は、世界を破滅から救う手段として伝説になるほどだ。
それとともに“虹の剣”の使い方も模索しなければならなかった。
魔力を感じ取り、吸収し、放出する能力はすでに判明している。しかしなぜ“虹の剣”と呼ばれてるのか。今の使い方ではとても“虹の剣”とは呼べない。
ただヒントはある。
折れた魔法剣を補った白の魔力で形成された刃が“虹の剣”の導きに思えた。
刃を持たない“虹の剣”は、魔力を放出して刃を形成するもののようである。だから折れた魔法剣に白の魔力を付与して敵の大剣を斬れたのは大きな指針となるだろう。
まずは前回成功した“白の剣”を再現してみる。白の魔力を“虹の剣”に注ぎ込み、放出して刃を吸収して循環させる。これで白を剋す赤が斬れるかどうか。斬れたら他のものは問題なく切れるはずだ。
スキルトに合図して〈炎の壁〉を作らせた。そして“白の剣”で斬れるかどうか。白のイメージを強く保ち、“虹の剣”に宿る実体のない刀身で斬るのである。バートランドは間を置かずに構えてひと振りした。
白で斬れたのを確認してから、青、緑、赤の順に刀身を作って斬ってみた。
多少コツが必要だが、単色の刀身を作ることは容易かった。次に黒だが、まだイメージが掴めないようで、刀身を維持するだけで至難の業だ。
「バートランド、黒の魔力が不安定だな。背中を押すからわれの魔力に集中するのだ」
そういうとアルスターはバートランドの背に手を当て、黒の魔力を注ぎ込んでいく。
「われの魔力が“虹の剣”で増幅され、バートランドに返ってくる。あとはそれを吸収して“黒の剣”を安定させればよい」
「だけど、これではアルスターがもたないだろう?」
「いや、われとバートランドは磁力が引き合って、双方の魔力が高まっておる。かえって力が湧いてこようというものだ」
「この力で人間界を滅ぼそうとしているかもしれないけどね」
スキルトがまた毒づいた。
「われは魔界の平穏さえ達成できればそれでよい。人間界はバートランドに任せておけばよかろう」
魔族特有のクツクツとした笑みがこぼれた。
「おや、どうやら“黒の剣”も扱えるようになってきたな。さすが伝説の“虹の勇者”だ。飲み込みが早いな」
“魔王”に褒められるのはなかなかにありえない状況である。
「で、次はどうすればいいのかな?」
「多色の魔力を混載させて刃にするんだな。それが“五色の剣”つまり“虹の剣”への近道だ」
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