第46話 ブースター

 バートランドたちは“虹の神殿”において“虹の剣”の使い方を模索していた。

 タリッサの青、スキルトの赤、ラナの緑、クラウフォーゼ白そしてアルスターの黒の魔力が高まるにつれ、“虹の剣”は五色の魔力を吸収し、それがバートランドに流れ込んでくる。この奔流をひとつに束ねて“五色の剣”を生み出すべく意識を集中させていく。

 最初は束ねるだけでも難儀していたが、今では五つの色を個別に現すことも可能となっている。


 しかしアルスターによると“虹の剣”は魔力をすべて統合して虹色の輝きを持った“虹の魔力”で用いるものだというのだ。そして立ち位置にも言及した。


「なぜ“虹の神殿”には五芒星の絵があり、部屋が五つあるのかわかるか。あれこそが“虹の魔力”を最大限に引き出す配置だからだ。“虹の勇者”に注がれる魔力が反発しないよう、絵の陣形を参考にするべきだ」


 アルスターはバートランドたちが知らない“虹の勇者”の戦い方を教えてくれる。“魔王”として各地に魔物を配して情報を収集し、分析していたのだろう。

「本当ならわれが“虹の勇者”として魔界を救いたかったのだが。われは“虹の魔力”が得られなかったからな。まあ雑事はよい。早速陣形を組むぞ」


 バートランドの正面に緑の魔法使いラナ、右斜め前に赤の魔法使いスキルト、右斜め後ろに黒の魔法使いアルスター、左斜め後ろに白の魔法使いクラウフォーゼ、そして左斜前に青の魔法使いタリッサが位置する。

「ではバートランドを中心に、五色の魔法使いは隣と手を結んで円を描くのだ」

 そういうとアルスターは右手でスキルトと、左手でクラウフォーゼと手を握った。他の者もそれに倣った。

「このままそれぞれの魔力を高めてバートランドに注いでいくのだ。それが最も強い形でバートランドに魔力を送り込む秘訣だ」

「そういうことは最初に言ってもらいたいものだな」

 アルスターの言葉にラナが刺々しい態度をとった。


「ラナ、個人の好悪を表に出すべきでない。駄目なことを試してからでないと、身が入らんだろう? 今は皆心をひとつにしてバートランドへ魔力を送り込むのだ」

 アルスター以外の四人は不承不承のていでバートランドを囲んで魔力を高めていく。

 するとこれまでを上まわる魔力がバートランドへ注ぎ込まれた。バートランドは“虹の剣”を高く掲げて巨大な刃をイメージすると、まさに虹色の輝きに満ちた刀身が魔力で形成された。

 それを見たスキルトが思わず手を離して喜びを爆発させた。


「やった! バートやればできるじゃん! これで“終末の日”に間に合ったんじゃない?」

 しかし手を離して魔力のバランスが崩れ、放出された膨大な魔力が逆流してスキルトへ襲いかかる。アルスターがそれを察知してすぐに手を結び直す。

「タリッサ! 魔力を抑制しろ!」

 瞬時にタリッサは魔力を弱めた。するとスキルトに牙をむく魔力の奔流が力を落とした。それと同時にアルスターが身を挺してスキルトに倒れ込み奔流からかばった。


「スキルト! アルスター! 無事か!?」

 バートランドは確認するように問いかけた。その声にアルスターが体を起こす。


「われはだいじょうぶだ。スキルト、貴様はどうだ?」

 問われたスキルトも体を起こすと動いてみせた。

「だいじょうぶ、みたい。アルスター、ありがとう」


「いったいなにが起こったのだ?」

 ラナに問われてアルスターが答えた。

「これは五色の魔法使いが互いに力を高め合う陣形なのだ。だから誰かひとりでも途中で魔力を途切れさせると、高まった魔力が行き場を求めて結果として魔力を断った側へと流れ込む。今回は赤のスキルトが手を離したから魔力が襲いかかったのだ」


「ということは、スキルトの軽はずみな行動でアルスター様を傷つけてしまったのですね。申し訳ございませんでした」

 バートランドがアルスターに向き直って手をかざし、白の〈治癒〉と〈回復〉を使って彼女の傷とダメージを癒やした。


「すまなかったな、バートランド。われが先に指摘しておけば、こうはならなかったものを」

「いや、僕もまさか途中で中断しようとする人がいるとは思わなかったからね。落ち度とがあるとすれば、スキルトの性格を知りながら注意できなかった僕にある」

「バートランドは優しいな。本来謝らなければならんのはスキルトだというのに」

 その言葉を聞いて、スキルトはバツの悪そうな顔をしていた。


「バート、アルスターさん、本当にごめんなさい。もう途中で手を離したり勝手に魔力を上げ下げしないから」

 涙を浮かべながらスキルトは謝罪の言葉を述べた。


「だが、陣形次第で魔力がこれほどまでに高まるとは思わなかったろう。これが“終末の日”に世界の崩壊と戦う力なのだ。そしてわれらは“終末の日”が来る前から、世界を補修していかねばならん。より高度な使い方をしなければならないだろう」

「アルスターさん、どんな方法かわかりますか?」

 タリッサの疑問は当然だった。


「いや、まったくわからん。そもそも“終末の日”への対処法は先代から聞かされていたが、その前にどうすればよいのかなんて誰も知りはしない」

「暗中模索というわけですわね」

「ただ、ヒントはある」


「ヒント? どんなことがヒントになるのかな?」

 バートランドは疑問に思ったが、アルスターは至極当然というふうだ。


「われら五色の魔法使いが、“虹の勇者”であるバートランドに直接触ることだ」

「直接触る?」

「ああ、そうだ。五人が手を結んでから、その手でバートランドに触るのだ。“虹の勇者”に触れると魔力が底上げされる、という現象を考えれば、これ以上に魔力を高める術は存在しなかろう」

 五人は円形に手を握っていたところから大きく一歩前進して両手がバートランドに触れた。


「それと、バートランド。お前は“虹の剣”で斬るイメージではなく、絵を描くイメージを持ってくれ」


「絵を描く? どういうことかな?」


「これも先代が話したことだが、“終末の日”は世界を混沌に戻す“神の意志”だ。しかし神の力を継承した“虹の勇者”は、混沌とした世界を再び描き出すことで文明を取り戻せる、と言われている。つまり魔法使いや剣士というより画家としての力が試されるわけだ」

 “虹の勇者”が画家だった。そんな伝承、今まで聞いたこともなかった。


 そこへアルスターの使い魔が現れた。黙って話を聞いていた彼女は皆に告げた。

「今、魔界で“終末の日”の兆候が強くなってきたとのことだ。他に用事がないのであれば、さっそく皆に魔界へ来てもらいたいのだが」



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