7.からくの(烏丸とくのらのカップリング)
ちょうど一週間後の配信。
そこには宣言通り
「そんなにあのマロが効いてたのか……」
マロ主が烏丸ガチ恋勢だから、あえててえてえムーブをすることで心を壊そうとしているのだろう。天使とは思えない極悪さだ。
元気にFPSで銃をぶっ放す天使を横目に、数日前に販売開始したボイスのファイルを開く。
ファイル名『放課後デートボイス_臼裂くのら.wav』
六七分程度の内容、素人ながら二人で試行錯誤して録った傑作である。目は配信から離さずに薄くボイスをかける。
人の少ない教室の中、扉を開く音がして、足音がこちらに近づく。
『おーい、今日は約束通り、私の行きたいとこ付き合ってもらうから』
そこから臼裂はくらうどを放課後デートに誘い、カフェへと向かう。
その後雑貨屋でピアスを買って、卒業後にプレゼントするよう言う。
もとの台本から多少変更点もあって、
カフェではチーズケーキではなく、チョコケーキとカスタードプリンにしたり、雑貨屋を出てから手を繋ぐシーンを追加したり、経験が生かせるようにした。
慣れない音声の編集にも挑戦し、それっぽいくらいにまで仕上げている。
「良くはなったけど、やっぱ下手だなあ」
白崎の初々しさに苦笑する。
聞くに堪えない棒読みではなくなったものの、先日の経験直後のような演技の上手さは消えていた。「結構頑張ってるじゃん」と思われる程度には上達している、そこは大きな進歩だろう。
『それで、改めてその時にプレゼントして、いい?良かった』
あれだけ嫌がっていたボイスを、最後には自分から読んでくれた。
あのときのまるで本心を喋っているかのような口調と、恋するように赤く染まる頬――演技とは思えないあれには彼女のポテンシャルの高さが垣間見えていた。
きっとこれからもっと上手くなる、それだけで一人のくらうどとして嬉しい限りだった。
他のリスナーからもボイスは好評で、「こんなん聞いたら狂う」「くのらファン辞めます。ガチ恋になります」「こんな学生生活を送りたかった」など喜びの声が多数。
苦心して本を書き、苦労して白崎に読ませた甲斐があった。
多少天狗になりながらファイルを閉じて、配信の方へと意識を傾ける。
さて、優雅にインスタントコーヒーでも飲みますか。
『いやあにしてもボイス良かったすね』
『今日何回目!?もーうるさいって』
『内容も自分で考えたんすか?あんな激エモストーリー書けるなんて文才ありますよ』
おいおい褒め過ぎだぞ烏丸君、そんなにおだてたってスパチャしか出来ないからな?
上機嫌に烏丸のチャンネルへ飛んで、金額を入力しようとして、
『あれは私が書いたんじゃないよ?』
指をぴたりを止め、この世のものとは思えない形相で画面を見る。
待て、お前言うんじゃないだろうな。そこは自分で書きましたでいいだろ!?
『……あ、あれ私の弟作だから』
「あの身バレ回避させた弟だ!」と盛り上がるコメント欄、思わぬ返答に楽しそうにする烏丸君、何とか上手く切り抜けられたと嬉しそうな臼裂。
暗い部屋の中、画面の前で二十年老けたような絶望の表情の僕。
「あんの駄目天使ィ……」
椅子から崩れ落ちながら、死にそうな声で呟いた。
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