オリ曲が作りたいっ!!

8.くのら狂騒曲

「白崎さん」

「はい……」

「一度僕のことは匂わせすらしないって話し合って、決めましたよね」

「……決めました」

「名前を隠せばいいとかではなくて、存在しないものと扱うよう言いましたよね」

「……言いました」

 白崎の家、リビングのカーペットに正座する家主と見下ろす僕。

 

 叱っている内容は先日の配信である。

 満を持してボイスを販売し、その内容を臼裂と仲の良い烏丸にイジられる。そこまでは良い、よくあるプロレス芸だし、僕はそれを見たくてボイス制作を強行した節がある。

 問題は烏丸に「誰が台本書いたの?」と聞かれたときに、嘘の付けない臼裂は「弟だよ」と言い逃れしたこと。

 僕はこれの弟ではないし、こういう下手な嘘をつき続けるといずれボロが出る。

 血縁でない男女二人の関係が浮き出てくるのは怪しい、最悪VTuber生命を断つことになる。

 杞憂で終わればそれでいい。嘘みたいな理由で辞めなければならなかった人たちを多く見てきたから、そんな目に白崎を遭わせたくないという気持ちがあった。

 

「……ごめんなさい」

 自分は悪くないと顔に書いているが、謝ってるから許してやろう。

「まあ友達に書いてもらったとか言わなかっただけ良かったよ。弟なら配信が盛り上がるしな」

「でしょ!?我ながら機転が利いてるよねえ!」

「調子に乗るな」

 しょぼくれた顔になって「はい……」と俯く。

 

 臼裂くのらはついさっき登録者数九万人に到達した。

 怪我の功名というか、不幸中の幸いというか、現在『弟に身バレを回避してもらった天使系VTuber』としてプチバズっていたのだ。

 本人のチャンネルで上げた切り抜きは既に十五万回再生を記録し、非公式切り抜きチャンネルではそれ以上の再生回数を回している。たった数日でこの成長、臼裂至上最大の伸びをあの一件で見せたのだ。


 こいつが悪びれてないのはこれが原因である。

 「伸びたからええじゃろがい」と思っているのだろう。

 「弟(僕)を登場させたらもっと伸びるのでは!?」とも考えているかもしれない、そんなこと言い出したらはっ倒す。

 

 僕たちは今打ち合わせの真っ最中。

 普段は月末に行うのだが、今回は白崎の提案で日程を早めた。怒られたくて言ったとは思えないから、なにか伝えたいことがあるのだろう。

 

「オリ曲を作りたい」

 

 ソファに座る白崎は意を決したように告げる。

「オリ曲かあ……いいんじゃないか?」

「そんなあっさり!?絶対反対されると思ってた、お前はそんな売り方してないだろ的な」

「僕は鬼か」

「私は天使だけどね」

 そんなこと聞いてない。


 オリ曲かあ……バズって九万人に行けたし、十万人に到達する日も遠くない。

 一曲作るのに場合によっては半年くらいかかるって聞くが、このペースでいけるとも限らないし、丁度良い頃合いなのかもしれない。

「発注とか面倒だと思うけど頑張れよ」

「スゥ……そのーですね、歌ってみたの作り方はだいたい分かるんですけど、オリ曲はちょっとなんにも分からなくてですね…………」

「ほう、それは大変だな」

「そうなんですよね……大変っぽくてですね……手伝っていただけたらなと思っておりまして」

「えーいいよ」

「いいんだっ!!そのノリで二つ返事なことあるんだ!!」

 目を輝かせて、両手を祈るように合わせる。

 なにをどうすればオリ曲が作ってもらえるのか分からないが、意外となんとかなるだろう。

 というか臼裂くのらのオリ曲という響きが素晴らし過ぎる、是非聞きたい。


「具体的には僕は何をすればいいの?」

「本当になんにも分からんないから一から十までやってほしいんだよね!」

 容赦なくはっ倒した。

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