20.ガッテム!

「なんだあそういうことね、ちゃんと説明してよ。紛らわしいなあもう」

「聞く耳を全く持たなかったお前が言うか」

 半泣きで暴れ出した白崎を必死になだめる錬村の構図は少し面白かった。

 もう一度見たいと言ったら怒られるかな、怒られそうだ。


「qedは取材で来てて、歯形はコーヒーのせい……納得いかないけど、許してあげる」

「最終責任者から許可が下りたね、これで安心して生活が送れる」

「家主の僕は中間職か。せめて白崎家で寝泊まりしてくれないか?正直心臓に悪い」

「汚そうだから嫌」

「きたなっ!?掃除すれば足の踏み場くらい確保できるし!」

「白崎よ……」

「な、なに。言いたいことでもあっての?」

「仕方ない、解答者に刺されないよう極限まで気を遣いqedの宿泊を許可しよう」

「無視するなー!」


「でも良かった。くのらの家に変わると、せっかく改造した部屋が台無しになるし」

「「改造?」」

 白崎と錬村の声が揃う。ちらと二人の驚いたような顔を見て、ソファから立ち上がる。

 錬村の自室とは反対方向の部屋へと向かう。私の後を追って二人も歩いていた。

にやにや笑みをこぼして、二人のリアクションを想像しながら扉を開く。

「見て、頑張ったよ」

「なっ……!?俺の部屋が!?」

「やられたね、なんというかドンマイ。いやあ私の家じゃなくて良かったー」

 もともと倉庫のように使われていた一室を大胆に改造。

 まず置かれていたグッズや漫画類を全て私の家に移動させた。

 空になった部屋にワーキングデスクとチェア、デスクトップPCと周辺機器、録音機材の諸々を運び込み、これだけでは寂しかったのでエレキギターとシンセサイザーも入れた。あと加湿器。防音シートを壁一面に貼り、ご近所トラブルへの配慮も完璧。


「お前が起きてから一時間も経ってないのに、いつの間に」

「時間止められるし」

「あっそっかあ」

 錬村は気の抜けた返事をする。

「ちょっと待ってqedって時間止められるの!?」

「やっぱその反応するよな!ぽんぽん悪魔みたいなことするこいつがおかしいよな!」

「だって悪魔だし」

「お願い十時間くらい止めて!私もっと寝たいの!!」

 いつにない大きな声で白崎は叫び、私の肩を掴んでぐわんぐわんと揺らす。め、目が回る。

「天使に加担してはいけないって魔界規約にあるからだめ」

「ガッデム!もういい普通に寝る!!」

「勢いで寝ようとするな。学校行く支度するぞ」

 錬村に引き剥がされた白崎はぎゃいぎゃい騒ぎながら、再び玄関へ引きずられていく。

 その様子を眺めていると、「お前の分も作ったから学校持って行けよ。キッチンにある、紫色な」と言って扉を閉める。

「何を作ったんだろう」

 首を傾げ、言われた通りキッチンを見る。

「あ」

 そこには三つの弁当箱が置かれていた。

パステルカラーの可愛らしい風呂敷――水色、黄色、紫色に包まれた三人分のお弁当。

 いつか作ってやると彼が言っていたのを思い出して、ついにやける。

朝ごはんは美味しかったからきっと弁当も美味しいのだろう、期待に胸を膨らませながら紫の風呂敷をつまみ自室――もとい旧錬村の物置へと入る。

 うきうきしてしまって、スキップなんてしながら。

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