37.入れ違い
「ああんっ!もう!すげー腹立つ!!ゲームでこんな処理したら絶対炎上よ!炎上っ!!運営はなに考えてるんだか!!」
白崎は地団駄を踏みながら、苛立ちを発散できずに叫ぶ。先方の不手際で一番重い刑が下されるなんてあっていいわけがない、彼女の気持ちは痛いほどわかる。天界には帰りたくない、ここにいたいと言っていたし、きっと僕以上に腹が立っているだろう。
分かりやすい理不尽。どうしようもない壁。
それが何の前触れもなく立ち塞がったのだ。
ダンッ!
床を強く踏んで、溜息を吐く。
「もーいいわ頭に来た。そっちがその気なら全面戦争よ、あの融通利かない馬鹿を泣かせてやる」
不敵な笑みを漏らしながら、携帯をいじり始める。
「なにしでかすつもりなんだ?」
「要はその措置を行う世界が悪いのよ……ふふふ天使系VTuberのコミュ力舐めないでよ」
魔王みたいなこと言い出した。
「お前、私を認めない世界なんていらないとか言って闇落ちするんじゃないだろうな」
「じゃ!やること出来たから帰るわ!」
「え、おい!」
呼び止める隙も無く、白崎は空き教室から飛び出して行ってしまう。
伸ばした腕は虚しく空を切り、変な笑い声が出る。
これからどうするんだよ。じわじわ今になって実感が湧いてくる。
あいつが天界に戻ったらVTuberとしての活動は続けられるのだろうか。
天界には退屈らしいけどあいつはこれから生きていけるのだろうか。
向こうには僕みたいに世話をしてくれる人はいるのだろうか。
もし彼女が帰らなねばならなくなったとき、この想いは無駄になってしまう。
おとぎ話の返事もしていない、だったらいっそ打ち明けてしまった方が――
「なんだよそれ」
はなから白崎がこの世界に留まることが出来ないと思っているみたいじゃないか。
天界規約やら管理人やら、そういう耳馴染みのない言葉に詳しくはないけれど、インターネットには多少知見がある。
一度広まったインターネットタトゥーが消せないことくらい知っている。
「無理ゲーだよなあ」
白崎は諦めていないなら、僕が匙を投げるわけにはいかない。
この一週間で、やれることを、なすべきことをやろう。
レインの通知が鳴って、ポケットに忍ばせておいたスマホを見る。
『ぶじ?』
それは土井からのメッセージだった。
『無事だけど連絡取れるのかよ』
『ずっと心配してたんだぞ』
『ごめん』『いま鎧の女の人が直してくれた』『声が泣いてたよなにやったの』
いやほんと申し訳ない。
エレノア白崎が怖くなって連絡取れるようにしたのだろうか。
罰は『自宅謹慎と能力の制限』だから通信の遮断はおまけでやってしまってた、とか?
それはともかく、たった今起きたことを土井に説明する。
『そっか』『私こんなだしやれることあんまりないだろうけど』『手伝えることあったら言って』
『お前本当にいい奴』
『友達だからね』
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