オリ曲を作るぞっ!!

30.ファン同士でも距離感は難しい

 僕には友達が少ない。

 友人の少なさは往々にしてコミュニケーション能力の低さ、容姿が美麗でないこと等が理由として語られるが、それだけではないと断言する。

 友達を作る秘訣、それは趣味嗜好を合わせること。

 前述した友達が出来ない理由をフルコンプしたとしても、読書好きなら読書好きと、音楽好きなら音楽好きと、それとない関係性が築けるものである。

 白崎に友人が多いのは合わせることに躊躇が無いから。

 僕に友人が少ないのはマイナー沼に浸かり、ここから出ようとしないから。


 ちらと誰もいな隣の席を見る。

 土井は今日休みだった。

 「今日は曲作りが佳境だから」と家の扉越しに言われてしまった。

 白崎に負わされた怪我のせいではないのがせめてもの救いだろう。

 土井が友人の少ない理由、それは単に欲してないから。

 プロとして活躍する彼女には高校の同級生というのはさほど魅力を感じないのかもしれない。

 

 VTuberというジャンルはインターネットで浮遊する分には巨大な島のように感じるが、いざ現実、もといクラスメイトたちにVヲタがいるかという話になればそんなことはない。

 いやいるにはいる、けれどジャンルが違う。

 大抵みんな企業勢のアイドルが大好きで、個人勢ちゃんと見てる人間なんていない……登録者数九万人だぞ?一人くらい知っててもおかしくないよな?

 三年活動してもこれだ、二桁万人、三桁万人の背中のでかさを実感する日々――いやそうではなく。つまり僕と友達になってくれるような奴はとんでもなく優しいか、とんでもなく布教が成功するヲタクであるということ。


「よう氷火。なんだ辛気臭い顔をして、隣の美少女と飯が食えないからって拗ねるなよ。俺が代わりに一緒に食べてやるから!」

 ゆっくりとした動作で見上げると、そこには赤髪の美青年がいた。

 スカした台詞を難なく言ってのける、ガタイの良い同級生。

 同じブレザーの制服を着ているはずなのに、彼が着ると王子様の礼装のようにも見え、前髪をかきあげるように留めている。大きく見開いた瞳に僕を据えて、くしゃっと爽やかに笑う。

 僕の数少ない友人の一人でパソコン部副部長――藤原十一。


「不機嫌なのは土井が休みなのが理由じゃないぞ」

「そうなのか?やけに仲が良さそうだったから、てっきり」

 流れるような動作で空いた土井の席に座り、机をくっつける。

「あっちょっ」

「ん?土井の代わりが俺じゃ不満か?」

「不満だな」

「俺はそうでもない、よってここは一緒に食べてもらおう」

 無言の主張に構わず藤原は弁当を広げ始める。

「そういえば、qedとくのらのコラボ見たぞ。面白かったなああれ」

 僕はむせた。

「なっなぜそれを知ってる……!お前の守備範囲から大いに外れてるはずだ!」

「氷火に勧められたから見たんだろ?何を言ってるんだか」

「……あれそうだっけ?」

 レインを開き、藤原とのやり取りをさかのぼる。

 あ、布教してるわ。

 しかもちゃっかり僕が編集した公式切り抜きのURL貼ってるわ。

「布教って基本壁打ちだから大体忘れてるんだよね。本当に見てもらえると思ってないから」

「あー分かる。アニメも一話見てもらうハードルが一番高いからなあ、んで見てもらっても面白さが伝わらないとがっくり来るし……ところでレイレイまだ見てないんですか?」

「お前その見た目でアニヲタなの意味分からん、腹立つ」

「話を分かりやすくそらしたな!」

「BLはちょっと……」

「かーっ食わず嫌いめ。お前は人生の半分を損している」

 箸をこっちに向けるな、唾を飛ばすな。

藤原はとんでもなく優しく、とんでもなく布教されやすく、かつオタクである。。

「で、どうだった」

「なにが?」

「なにがじゃない。切り抜き見たんだろ?なにがどう良かったか聞いてるんだ」

「ああうん……そうだな。二人共VTuberとは言え、界隈が違うよな。そこが同級生ってのがまず熱い」

「わかる」

「くのらは普段通りだったけど、qedがいつもの配信とは口調がちょっと荒いのが『わ、本当に友達なんだ』とぐっときた、尊い」

「わかるっ……」

「話す話題もさ、軽口叩き合う雰囲気がさ、今後の展開も楽しみだしさ。こりゃ『うすぺど』来るなって思って切り抜き見ながら長文ツイしかけたわ」

「わかるっ!!!」

 お互いの腕をぶつけるように熱く握手をする。

 新たな可能性に輝く目を合わせて、頷く。

「良いよな……!!」

「ああ、良い……!!」


「同じカップリングを愛するお前にだけ伝えたいことがある」

 熱冷めやらぬまま、周囲に気を配るように身をかがめて、こそりと呟く。

 藤原はやけに白崎がこちらを見ていないか気にかけているようだった。

「多分臼裂と白崎、同一人物だ」

 僕はふいた。

「うわっきたねえ!気を付けろよ」

「そっ……そんなことより、今なんて」

 口からブツを垂らしながら藤原の両肩を掴む。

「だから白崎の声すげー臼裂くのらに似てるから本人なんじゃないかって」

「ま、まさかー!だいたい臼裂が高校生なわけないだろ?」

「けどくのらが学校って」

「大学生なんじゃないか?それに高校生の経済力で機材揃えられると思うか?思わないだろう?仮に白崎だってとしてあいつは活動歴三年、つまり中三の時点でVTuberを始めたことになる。そんなこと本当にあると思うか?ないだろう、な?」

「白崎は確か良い家の出だし、そのくらいなんとでも」

「藤原」

「なんだよ」

「仮に臼裂と白崎が同一人物であるとして、ファンの俺たちが踏み込んでいい話じゃないだろ」

 はっと藤原は気が付いたような顔をして、静かに涙を流す。

「俺が間違ってた……そうだよな、誰が中の人なのかなんてどうでもいいもんな」

 静かに頷く。

「いいんだ。その過ちは誰だって通る道だ」

「けど俺っ……!俺……いけないこと考えてた、いい気になってたんだ。くそっ何がオタクだ!推しのことも考えられないで、何が……!」

「お前は一歩オタクとして成長できたんだ。それが今、俺は嬉しい」

 涙ぐみながら両手を広げた。

「氷火ーー!!」

「藤原ーー!!」

「「ひしっ!」」

 男泣きする二人は抱き合い、お互いを慰める。


「あの馬鹿共はなにやってるの?」

 離れたところにいた白崎は冷えた視線を向かわせていた。

 女子のああいうとこ、怖い。

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