4.演技克服デート~誰もいない教室編~
「白崎さーん!一緒に帰ろー?」
「……ごめんなさい、ちょっと今日は用事があって」
「あそう?じゃあまた明日ねー!」
元気な同級生の提案を丁寧に断り、彼女を待っていた数名の女子グループは話しながら去る。
授業が終わった学校は部活のある生徒たちがまばらに残っているくらいで、賑やかさが失われていた。
いつもなら部活へ行くのだが、今日は友人に頼んで休みにしてもらっている。
教室には僕と白崎しかいない、自分の席でスマホに目を滑らせる白崎の背中を軽く叩く。
「そろそろやるぞ」
声を掛けると、忌々しげにこちらを向いて、睨んだ。彼女の持つ液晶には僕が渡した台本の文章が並んでいる。
「本当にするつもり?もっとやり方あったと思うけど」
「演技力を磨くには体験するのが一番手っ取り早いだろ」
「そうかもだけど」
覚悟を決めたのか、スマホの画面を一番上までスワイプして、息を吸う。
『すみませーんくらうど君いますかー?あ、いた』
『おーい、今日は約束通り、私の行きたいとこ付き合ってもらうから』
白崎は渡した原稿を読んでいる。今のシチュエーションは聞き手の教室にやってきた臼裂が放課後デートに誘うところであり、現在の状況と酷似している。
経験こそリアリティ、当人の技量に繋がる。
つまりボイス台本とほぼ同じことをして同じように話せば、それが糧となって良い演技ができるのではないか、そう考えたのだ。
まるで感情の乗っていない読み上げだが、これを通していずれ良くなるはずだ……!
『ちょっ、怒んないでって、ただの放課後デートのお誘いだよ。覚えてても覚えてなくてもいいけど約束は約束だから、君に拒否権はありませーん』
『もしかして先客いたりするの?そんなわけないよね、お店しまっちゃう前に早く行くよ』
放課後、教室でのパートを読み切った白崎はじろりとこちらを睨む。
その顔は真っ赤に染まっていた。
「もうやめていい?めっちゃ恥ずかしいんだけど」
「内容でいうとまだ四分の一だぞ、頑張れ頑張れ。くらうどたちがお前のあまあまでろでろボイスを待ってるんだ」
「いやもうガチで萎えた。なんでこんな羞恥プレイ受けなきゃいけないの?もーいいよ送ったやつで手打ちにしよ」
顔を突っ伏すように上半身を机に放る。
「あんなもん売り物になるか」
「言ったな!とうとう言いよったな!私も薄々感じてたことをばっさり切り捨てよったな!!」
立ち上がり吠えるように怒る白崎。しまった、ついうっかり本音が口から出てしまった。
「まあまあ、烏丸君の厄介オタクの息を止めるためだと思って」
「……分かったよ、あれを〇すためにやってやるよ」
「〇す言うな。けどやる気が出たようで何より」
ファンのためよりアンチを滅ぼすためにモチベーションが上がるのはどうなのだろう。
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