23.Vは予定を守らない(ガチ偏見)
昼休みが終わり、眠い五限と怠い六限を踏破して、やっと放課後。
夕暮れまではいかない日の下りつつある少し暗い教室には、授業が終わった解放感に身を包まれ、昼休み以上に騒ぐ生徒たちが駐屯している。
既に下校の準備を終えた僕は、いつもならとっくに部活へ赴く時間なのに教室で一人、そわそわと自分の席で土井の帰りを待っていた。このまま放置されたらどうしよう。ドタキャンの懸念を抱えつつ、気まぐれにツブヤイッターを開こうとして、
「おまたせ」
死角から聞こえた声に肩を震わせ、携帯を投げそうになる。
振り向くと少し呆れたような表情の土井が立っていた。
「驚きすぎ」
「す、すまんちょっと過敏になってた」
「なんで?」
土井は背後を取るのをやめ、自分の席で鞄の中に教科書類を入れ始める。
「ドタキャンされないか不安になってわなわなと震えてたんだよ」
「そんなことしない、しかも自分から誘ってたのに」
「それが有り得るのがVTuberってやつらだ」
「すごい偏見…………でもないか」
心当たりがあるのかもしれない。
顎に片手を当て、考えていた彼女はなにかに気付いたように目を背けた。
「ちなみに白崎はドタキャン遅刻すっぽかし常習犯です。気を付けましょう」
「最悪だ。どう気を付けたらいいのそれ」
「家に行き叩き起こす」
「ゴリ押しなんだ」
社会不適合者に口で言っても伝わらない、体に覚えさせるしかあるまいよ。
「連絡はすぐ返すし、最後の最後には正常な判断が下せるタイプの不適合者だから、まだ頑張ってると思う」
「すぐにフォローしたね」
「よく考えたらこの教室にまだあいつ残ってるし……聞かれたらまずい」
教室中央で机に座り、帰宅部の白崎は友人と駄弁ってけらけらと笑っている。
今日は配信が無いし、早く帰る理由もないのだろう。
このまま遊びに行くのかもしれない、楽し気な白崎を見て、ちくりと胸が痛む。
あのおとぎ話を思い出したせい――あいつは本当にやりたくて活動をしているのだろうか、僕に言われたから渋々続けているのではないか。
「あっ」
白崎と目が合ってしまう。一秒にも満たない時間合った視線は気まずさで僕から逸らした。
しばらく彼女はこちらを見たあと視線を再び友人へ向け、会話に混ざっていた。
「じゃあ行きましょう」
「お、おう」
帰宅準備を終わらせた土井が肩を軽く叩いて、共に帰るように促す。
分かりやすい動揺に小首を傾げるが、何も聞かずに先導していた。
席から立ち上がり、後を追う。
小さな背の黒髪が歩くたびにくらくらと揺れている。
冬用のブレザーと黒タイツ、肌の露出を嫌っているのか後ろ姿から見えるのは首筋と手の白だけ。少し触れば壊れてしまいそうな腕と細い胴、
「小さいなあ」
土井はぴくりと反応して、顔だけ横に向けてこちらを睨む。
いつもの悪い目つきではなく、怒っているときの目だ。両手を挙げて降参を示した。
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