19, 暗殺者
シャロンウィンは囁き、道のすぐそこまで迫っている茂みに目をやった。
その「何か」は間違いなく茂みの中に潜んでいる。
「私が行きます」
護衛の1人が馬を下り、剣を構えて警戒しつつ、茂みに近づいた。
「誰かいるのか?姿を見せろ!」
護衛は叫んだ。
刹那、何の警告もなく、茂みの中から短剣が突き出された。
「ぅわっ!」
護衛はすんでのところで飛びのき、恐ろしい刃から逃れた。
間髪を入れず、茂みの中に潜んでいた人物が躍り出た。
彼は黒ずくめの服を着て、青紫色のマントを、変わった曲線が描かれたブローチで留めている。
シャロンウィンは生まれて初めて、本物の恐怖というものを味わった。
なぜなら、謎の人物の目的はただ一つ、シャロンウィンを殺すことだけだったからだ。
暗殺者の血走った目には、護衛も周りの人もただの背景としか映らなかった。
彼の目はシャロンウィンだけを捉えていた。
シャロンウィンは後ずさった。
しかし、それが何になると言うのだろう?
背後にあるのは一寸の隙間もなく生えたヒースの茂みだけだった。
暗殺者は短剣を構えてシャロンウィンに迫ってきた。
その動作の自然さが、彼が殺人に慣れていることを物語っている。
長年の経験からくる彼の自信が、シャロンウィンに言いようもない恐怖を与えた。
暗殺者に飛び掛かろうとしたジャールが護衛に抑えられた。
この暗殺者に飛びかかるのは、自殺行為に等しいからだ。
ペートルヒェンももう一人の護衛に抑えられている。
また一歩、暗殺者がシャロンウィンに近づいてきた。
「シャロン、逃げろ!」
「お嬢様!」
護衛の手から逃れようとしながら、ジャールとペートルヒェンが叫んでいるのが、ぼんやりと聞こえた。
――できない……もう逃げられない
シャロンウィンの脚は恐怖のあまりすくんでいた。
まるで、悪夢を見ているようだ。
――だが、これは夢ではない
暗殺者が短剣とともに飛び掛かってきても目を覚ますことはできず、反対に永遠の眠りにつくことになる。
――死
その存在を間近に感じて、シャロンウィンの背筋に戦慄が走った。
シャロンウィンの背後では限りない闇が大口を開けて待っている。
――できない……もう逃げられない……私は死ぬ……
シャロンウィンは目を閉じた。
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