23, リリア姫
「お嬢様、こちらはウェーデル公の御娘、リリア姫でございます。
リリア姫、こちらはロンデルフィーネ王国の救世主にして強力なる魔力の使い手、フェルカの森の乙女シャロンウィンでございます」
シャロンウィンは今、謁見の間でリリア姫と対面していた。
ペートルヒェンがシャロンウィンを退屈させないために、リリア姫と友達になれるよう取り計らってくれたのだ。
上品に編み上げたブリュネットの髪、ブラックベリーのように艶々と光る瞳、バラ色の頬。
ヘルリンナの言う通り、リリア姫はとても可愛らしい顔立ちだった。
「お会いできて光栄ですわ」
リリア姫は控えめに微笑み、淡い青のドレスの裾を持ち上げて優雅にお辞儀した。
「私も!」
シャロンウィンは心からの笑みを浮かべたが、リリア姫が返した微笑みは、心からのものではないように見えた。
リリア姫はシャロンウィンと同い年だと聞いてたのに、随分大人びて見える。
そして何より、彼女にはシャロンウィンにない堅苦しさがあった。
シャロンウィンはそれが嫌いではなかったが、心からの友達にはなれないような気がした。
「しばらく、お二方だけでお過ごしになりますか?」
ペートルヒェンの問いかけに、リリア姫は頷いた。
「リンナも一緒がいいわ」
リンナというのは、シャロンウィンの召使いのヘルリンナのことだ。
ドルウェット城で一週間ほど過ごし、やっと彼女はシャロンウィンに打ち解けてくれた。
そこで、リリア姫、シャロンウィン、ヘルリンナを残し、広間にいた人々が出ていった。
「ねえ、あなた魔法が使えるってホント?」
周りの人がいなくなった途端、リリア姫の話し方は一気に変わった。
「まあね」
シャロンウィンはリリア姫の態度に面食らっていた。
先程までの上品さはどこへやら、今はとてもフレンドリーだし、シャロンウィンに興味津々だ。
「私のこと、お堅いお嬢様だと思ってた?」
シャロンウィンは頷いた。
「お父様や、お城の人たちの前ではレディでいなきゃいけないの。私はウェーデル公の娘として生まれてきたから。ああ、運命を自分の手で変えられたらいいのに」
やはり、リリア姫と心からの友達になれないと思っていたのは間違いだった。
リリア姫の気持ちはシャロンウィンにも痛いほどよく分かる。
シャロンウィンもフェルカの森を出てから、自分の運命を自分で変えたいと思うことが何度もあった。
「ねえ、魔法を見せてよ」
一週間前なら、シャロンウィンはリリア姫の言う通りにしただろう。
しかし、今は魔法を使うのが怖かった。
――また暗殺者に遭遇したときのように恐ろしい魔法を使ってしまったら?
――リリア姫やヘルリンナを傷つけてしまったら?
――メルダインのようになってしまったら?
普段は無意識のうちに魔法を使っているから正確には分からないが、この一週間は一度も魔法を使っていないような気がする。
「ごめんなさい。私……できないわ」
リリア姫の瞳に浮かぶ失望の色を見て、シャロンウィンは心苦しくなった。
以前は何かしたいと思ったら、自然とそれが魔法になって現れた。
だが、今はそうならない。
そして、無理に魔法を使おうと思うと、シャロンウィンの魔法で苦しむ暗殺者の姿が何度も頭をよぎるのだった。
そのとき、中庭の方が何だか騒がしくなってきたことに気づいた。
シャロンウィンたちがいる謁見の間は一階にあり、中庭に通じるドアがある。
リリア姫、シャロンウィン、ヘルリンナはそのドアから中庭に出た。
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