24, コールボールの王妃
中庭ではちょうど、城門から2頭の馬とそのうちの1頭に乗った若者が入ってきたところだった。
若者は随分疲れた様子で、馬に乗りながらマントに身を包んだ誰かを抱いている。
「誰か、早く医者を! コールボールの王妃が瀕死の状態だ!」
兵士の中の誰かが叫び、別の誰かが医者を呼びに走って行った。
――コールボール?
その名前には聞き覚えがあった。そう、コールボールはメルダインが支配している国だ。
それから、王妃というのは確か王様と結婚した人のことだ。
――ということは……
コールボールの王妃というのはメルダインのことではないか!
シャロンウィンは今すぐにでも、メルダインを追い出さなければと焦ったが、シャロンウィンの直感は、若者の腕に抱かれている、か弱そうな人を助けるべきだと告げていた。
「その人をここに寝かせて! お医者さんが来るまで、私が面倒を見るわ」
気づけば、シャロンウィンはそう言っていた。
「しかし、王妃様を地面に寝かせるというのは……」
さっきの兵士は言ったが、
「今はそんなことを言っている場合ではありません。母上もお気になさるまい」
と、若者が言った。
「ブランデン王子がそうおっしゃるのなら……」
と、兵士も引き下がる。
ブランデン王子と呼ばれた若者は腕に抱いていた人をシャロンウィンのすぐそばに寝かせた。
「メルダインじゃないわ」
シャロンウィンは呟いた。
アルトリア王は、メルダインは美女になれると言っていたし、この人は確かに美女だが、悪い人だとは思えなかった。
考えてみれば、メルダインはゴルバス王をたぶらかしただけで、王妃になったわけではないのだ。
「母は、大丈夫でしょうか?」
ブランデンが心配そうに言った。
シャロンウィンは王妃の額に手を当てたり、心臓の音を聞いたりして様子を見た。
医術は、フェルカの森に住む前にサリヴァンダーから教わった。
その頃、シャロンウィンはうんと幼かったが、怪我をしたり毒キノコを食べたりした動物を幾度も助けてきたから、腕は衰えていない。
「リンナ、お城から毛布と熱いお湯を持ってきて」
ヘルリンナは短く頷くと、すぐに城に走って行った。
「母は、大丈夫なのですか?」
ブランデンが再び尋ねたが、シャロンウィンには他にも言うべきことがあったから、それには答えなかった。
「リリア姫には薬草を探してきてもらいたいの。ゼルインなら中庭でも見つかるはず。葉の裏が白くて、ギザギザの草よ。日陰で見つかるわ」
「葉の裏が白くて、ギザギザの草ね。すぐに持ってくるわ」
リリア姫も、今は世間体を気にしている場合ではないと分かっているので、すぐに走っていった。
「教えてくれ! 母上は助かるのか?」
ブランデンがシャロンウィンの両肩を激しくて揺さぶったので、二人はそこで初めて目を合わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます