25, 王妃の目覚め
シャロンウィンは、ブランデンの瞳に吸い込まれそうになった。
――この方の瞳はなぜ、こんなにも明るく輝いているのかしら?
あたかも、周りに靄の帳が降りて、二人を包み込んでしまったかのようだった。
この瞬間、世界にはシャロンウィンとブランデンしか存在せず、二人はお互いに出会うためだけに生まれてきたように思えた。
――この気持ちは何だろう?
お腹の中で蝶が羽ばたいているようだ。
フェルカの森中を駆け回った後よりも速く心臓が脈打っていたが、それはちっとも不快ではなかった。
シャロンウィンは自分の心に、素敵な何かの訪れを感じ取った。
「お嬢様、毛布と熱いお湯を持って参りました」
ヘルリンナの声で、シャロンウィンは我に返った。
そうだ。今は王妃を助けることに集中しなければ。
シャロンウィンは手早く王妃を毛布で包んだ。
「私に出来る限りのことをするわ。決してあなたのお母さんを死なせはしない」
シャロンウィンは自分の激しい鼓動が伝わってしまうのを恐れているかのように、ぎこちなくブランデンの手に自分の手を重ねた。
「シャロンウィン、ゼルインはこれで合ってる?」
リリア姫がゼルインを手に戻ってきた。
「それよ。ありがとう」
シャロンウィンはゼルインを慣れた手付きでちぎり、ヘルリンナが持ってきたお湯の中に入れた。
すぐに、辺りにゼルインの爽やかな香りが広がった。
シャロンウィンは優しく王妃の口を開け、ゼルインを入れたお湯を流し込んだ。
シャロンウィンの診断では、王妃は凍え死にかけていた。
見たところブランデンと王妃は旅をしてきた様子だが、その間に何か寒い思いをしたのだろう。
だがシャロンウィンの鋭い勘は、王妃が気を失った原因が他にもあると告げていた。
――何だろう?
どこかに深い傷があるようには見えないし、毒を飲まされた形跡もない。
そのとき、王妃がゆっくりと目を開けた。
「ブランデン……」
「母上!」
ブランデンは王妃を抱きしめた。
王妃の声は今にも消えてしまいそうなほど小さかったが、それでも彼女は意識を取り戻したのだった。
「ここは……?」
「ドルウェット城でございます。遂に辿り着きました。この方が母上のお命を救ってくださったのです。」
ブランデンはそう言ってシャロンウィンを手で示した。ブランデンが自分のことを良く言ってくれたというだけで、シャロンウィンは舞い上がりそうだった。
「シャロンウィンよ」
シャロンウィンは言った。
すると、王妃とブランデンは、信じられないというように顔を見合わせた。
「それでは、あなたは、ロンデルフィーネ王国の救世主にして強力なる魔力の使い手、フェルカの森の乙女シャロンウィンなのですね?」
「そう言われているみたいね」
シャロンウィンは肩をすくめた。シャロンウィンに会った人は、なぜか皆こう言うらしい。
「それでは、私たちは、旅の目的を果たしたのですね」
王妃は安心して笑みを浮かべると、また気を失ってしまった。
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