30, 会議 その2

「ヘイステッド大臣! その発言は、国王陛下への根拠のない中傷でございます! そのような発言は慎んで頂きたく存じます!」


 扉の向こうにいたのは、お茶を載せたお盆を持ったペートルヒェンだった。

 ペートルヒェンが大声を出すなど、シャロンウィンは想像したことすらなかったので驚いた。


「おのれ、盗み聞きしておったのか!」


 ヘイステッドと呼ばれた大臣は怒って立ち上がった。


「いえ、お茶をお運びしただけでございます。一介の執事如きが、上級大臣に向かって無礼を申しました」


 ペートルヒェンはすぐにいつもの調子に戻ると、手早くお茶を置いて会議室を出て行った。

 会議室の中の人々は、呆然としてペートルヒェンの後ろ姿を見ていた。


 その一瞬の沈黙を利用して、アルトリア王が話を進めた。


「兵力が当てにならないなら、無駄な流血は避けたいところだ」


「しかし、戦わずして如何にメルダインを止めると言うのです?」


 ブランデンは国王であるアルトリア王に臆することもなく言った。

 彼は自分が何も出来ないことをもどかしく感じているのだった。


「和平だ」


 再び、会議室が騒がしくなった。


メルダインと和平を結ぶ? どういうつもりだ?


「和平を打ち立てれば、メルダインも今ほどあからさまに襲撃を行うことは出来なくなる。無論、一時的なことだ。

不本意だが、理解して欲しい。我々には時間が必要だ」


 ルヴェーヌ王妃もこれに同意した。


「アルトリア王のおっしゃる通りです。和平協定を結んでしまえば、メルダインが攻撃してきたとき、ロンデルフィーネには彼女を正当に批判する理由ができます。そうなれば、周辺国の協力を仰ぐこともできますわ。

 それに、コールボールとロンデルフィーネの親睦が深まれば、国民たちの団結力も高まり、メルダインに対抗する勢力ができます。それがメルダインと対決する時に役に立つかはともかく、無いよりは良いはず」


 キョーテイだの、シューヘンコクだの、セーリョクだの難しい言葉ばかりが出てきたが、ルヴェーヌ王妃の発言のおかげで、全員が渋々ながらアルトリア王の考えに賛成したことはシャロンウィンにも分かった。


「ならば、和平と親睦の意味を込めて、馬上槍試合を開催しましょう」


 ブランデンが言った。


「バジョーヤリ……?」


 これが、シャロンウィンの初めての発言だった。


「馬上槍試合。馬に乗った騎士たちが一騎討ちするんだよ。もちろん本当に戦うわけじゃないけど、見応えがあって盛り上がるんだ。こういう時には定番だよ。後で詳しく説明してあげるからね」


 ブランデンに笑顔を向けられて、シャロンウィンはぎこちなく微笑み返した。

 こんなに素敵な笑顔を向けられては、会議に集中できない。

 もっとも、集中したところで、話の内容が難しすぎるのだが。



――ブランデンの瞳には、一体どんな私が映っているのかしら?


 シャロンウィンは彼の黄金色の瞳を見つめながら、ふと思った。


――私が彼を見て感じるようなときめきを、彼も感じているのかしら?


――それとも、それは単なる私の妄想? 彼にとって私は友達に過ぎないの? 

  ブランデンに直接聞いてみたいわ。


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか会議は終わっていた。

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