31, 喧嘩

「駄目だ。絶対に行かせられない。危険すぎる」


「でも、ひどいわ、アル。ずっと楽しみにしてたのに! 私、ずーっとお城の中で我慢していたのよ。こういう時くらい外に出たいわ!」


「駄目と言ったら駄目だ。どうして素直に言うことを聞けない?」


「だって、こんなの不公平だもん! アルは行けるのに、私は行けないなんて!」


「私は国王だ! 私が行かなければ意味がないだろう?」


 こんなやり取りが、長い間続いていた。

 ロンデルフィーネ王国とコールボールの親睦を深めるために行われる馬上槍試合の詳細が決まり、いよいよ3日後に遠くにある試合会場へ出発という時になって、アルトリア王はシャロンウィンにドルウェット城にとどまるよう言ったのだ。

 シャロンウィンがコールボールのゴルバス国王と共に試合を見に来るであろうメルダインに見つかると危険だと言うのだ。

 だが、ドルウェット城で退屈していたシャロンウィンはもちろん、馬上槍試合を見たくてたまらない。

 後ろに控えていたペートルヒェンが、頑固な二人にウンザリした様子で咳払いした。


「お嬢様、陛下はお嬢様のためを思っておっしゃっているのですよ」


「違うわ! 私が邪魔なのよ。アルは自分一人で馬上槍試合を見たいんでしょ? 私がいたら、トラブルを起こさないように見張っていなくちゃいけなくて面倒くさいと思ってるんだわ!」


「いい加減にしろ! 何も知らないで我儘を言うな!」


 ついにアルトリア王の堪忍袋の緒が切れた。

 アルトリア王は怒鳴った。


 ペートルヒェンはシャロンウィンが泣き出すのではないかと心配したが、シャロウィンは滅多なことでは泣かない子だった。

 代わりに、シャロウィンは激怒した。


「もういいわ! アルなんか大っ嫌い!!! 大嫌い! 大嫌い! 大っっっ嫌い!!!!!」


 シャロウィンはアルトリア王をキッと睨みつけると、大股で部屋を出て行った。



 アルなんか大っ嫌い! もうアルとは口も利かないわ! 


 シャロウィンは大きな音を立てて歩きながら思った。

 だが、少ししてあんな風に怒ったことを後悔した。


――自分はあんな風に面と向かって大嫌いと言われたら、どんな気持ちになるだろう?


 シャロウィンは考えた。


――きっと、深く傷つくだろう。戻って謝るべきだろうか? いや、悪いのはアルだ。アルが先に謝るべきだ。


――それより、何とかして馬上槍試合を見る方法を考えなければ。


 ……そうだ!リリア姫に頼もう! リリア姫はケンリョクとやらを持っているから、何でもできるはずだ。


 思いつくとすぐに行動してしまうシャロウィンは、早速リリア姫の部屋へと急いだ。

 シャロウィンやアルトリア王の居住区域とは離れているが、リリア姫や彼女の父ウェーデル公が住む塔もドルウェット城にある。

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