32, 秘密の計画

 リリア姫の部屋の近くで、偶然ウェーデル公とすれ違った。


「何事かね?」


 ウェーデル公は冷たく言った。


「リリアに会いたいの」


 ウェーデル公は、シャロウィンが自分に対して敬語を使わなかったことに顔をしかめた。


「正直に言って、我が愛娘を野生児の君に会わせるのは気が進まない。君は私の娘に悪い影響を与えるだろう」


 シャロウィンは返す言葉が見つからなかった。

 自分の振る舞いが、ギルベッカや一部の貴族たちに良く思われていないことは分かっていた。

 だが、これほどあからさまに侮辱されたのは初めてだ。


「アルトリア国王や執事にちやほやされているからと言って、何でも自分の思い通りになると思っていい気になるな。君を我が娘には近づけまいぞ」


 そのとき、リリア姫の部屋のドアが開き、リリア姫本人が出てきた。


「お父様、どうないましたの?

 ……まあ、レディ・シャロウィンではございませんか! お父様、どうしてレディ・シャロウィンがいらっしゃったことをもっと早く教えてくださらなかったので? せっかくですから、レディ・シャロンウィンとお話しても?」


「良いだろう。だが、あまり長くならぬように」


「はい。お父様」


 シャロンウィンはリリア姫の部屋に入ると、早速さっきのアルトリア王との出来事を手短に話した。

 リリア姫はすぐに、シャロンウィンに同情してくれた。


「馬上槍試合が開催される広場にシャロンウィンのための場所を確保するのは簡単だわ。観客席の端の最前列ならアルトリア王の席から見られづらいけど、試合はよく見えるの。問題は、どうやって広場に行くかだわ」


 リリア姫によると、広場はドルウェット城のはるか北、コールボールとの国境にほど近いところにあるらしい。

 アルトリア王を含めた大所帯でそこまで移動するなら、優に六日はかかるそうだ。


「そうだ! 私の荷物を乗せた荷車に乗ればいいわ。私が管理するなら他の人に見つかる問題もないし。でも、あなた一人じゃさすがに心配だわ。シャロンウィン、お供になってくれそうな人はいない?」


「いるわ! ジャールならついてきてくれると思う」


 実は、ジャールには馬上槍試合に出ない馬たちをドルウェット城で世話するという仕事があった。

 この後、ジャールはシャロンウィンの頼みを断ることができず、彼女のお供になることを承知してしまうのだが、もちろんシャロンウィンにそんなことは分からない。  

 リリア姫も、


「それならよかったわ」


 と笑顔を見せた。


 シャロンウィンはリリア姫と、計画の細かいところを詰めると、意気揚々と部屋を出た。

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