17, 恵みの雨

「そんなこと出来るの、シャロン?」


 ジャールは驚いた。

 ジャールが見たシャロンウィンの魔法は、ギルベッカを転ばせたものだけだった。  

 雨を降らせるほど大規模なことができるのだろうか。


「私は、ロンデルフィーネ王国の救世主にして強力なる魔力の使い手、風を自在に操る者、フェルカの森の乙女シャロンウィンなのよ」


 シャロンウィンはいたずらっぽく微笑んだ。


「誰か、水が入ったバケツを持ってない?」


 水がとても貴重なため、村人たちはバケツを渡すのを渋ったが、やっと1人がバケツを差し出してくれた。


「ありがとう」


 シャロンウィンはバケツを村の真ん中まで持って行った。

 村人たちは興味津々で後を付いてくる。


 シャロンウィンは、人差し指の先をバケツの水につけて回し始めた。

 それはまるで、水に円を描くかのようで、魔法というより少女の遊びだった。


 バケツの中の水が渦を巻くようになると、シャロンウィンは回すのをやめずに指を水面より高く上げた。

 これがただの遊びなら、人差し指は水から離れ、指先から水滴が滴り落ちるはずだろう。


 ところが、水はシャロンウィンの指と共に上昇し、ついにはバケツから完全に離れて、指の動きに合わせて空中で渦を巻いた。


 燃えるような太陽の光が渦巻く水に反射して鈍く光った。


 水滴がいくつか、辺りに飛び散った。


 クルクルと回る人差し指がシャロンウィンの頭の上にまで達すると、シャロンウィンは素早く手を握り、一瞬の後にパッと開いた。


 直後、渦を巻いていた水は驚く村人たちの遥か頭上へ舞い上がった。


 そしてそれは突然、弾けて水滴になり、パラパラと地上に落ちてきた。


 やがて、水滴は少しずつその量を増し、雨になった。干からびた村に無数の雨粒が落ち、乾いた地面を、枯れた植物を、埃まみれの村人たちを、優しく濡らした。

 樽や井戸にはみるみるうちに水が溜まって行き、地面が吸いきれなかった水がいくつもの筋を作って枯れた小川に流れ込んだ。


「雨だ!」


「雨が降ったぞ!」


 村人たちは、信じられないという顔で自分たちに降り注ぐ恵みの雨を眺めていた。


「どう?これで魔法を信じる気になった?」


 シャロンウィンはわざと偉そうな口調でジャールに言った。


「もちろんさ」


 ジャールは笑顔で答えた。


 シャロンウィンの金髪に落ちた雨粒がキラキラと光って、ジャールにはそれが少しだけ、眩しすぎた。

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