16, ダンジェリー村

 シャロンウィン、ペートルヒェン、護衛が二人、そしてジャール(シャロンウィンが言っていた『友達』とはもちろんジャールのことだ)は昼前にダンジェリー村についた。

 この村は、メルダインの被害に遭った村の中で一番ドルウェット城に近いところにあり、被害も一番小規模だった。


 とは言え、その惨状はシャロンウィンの予想をはるかに超えていた。

 みすぼらしい服を身にまとった村人たちの、どんよりとした視線を浴びて、シャロンウィンの心は同情の気持ちでいっぱいになった。


「さあ、早く作業に取り掛かりましょう」


 アルトリア王には、夜遅くなる前にドルウェット城に戻り、村の状況や修復作業の進み具合を詳しく報告するようにと言われていた。


「ここでは、すっかり雨が降らなくなっているようでございます」


 ペートルヒェンの言う通りだった。


 草木は干からび、人々は永遠に降らなくなった雨を期待して方々に樽を置いたり、天に向かって祈りを捧げたりしていた。

 まだ春だと言うのに村の中を歩くと、遮る物のない太陽の光がギラギラと照りつけ、そのせいで乾ききった地面までもが熱気を帯びていた。


「何から始めましょうか?」


 ダンジェリー村にはやるべきことが多すぎて、逆に最初にやるべきことが分からなかった。


「まずは村長や、この村で一番偉い人に話を聞いてみよう」


 ジャールが答えた。

 ジャールはまるで、村人たちの視線からシャロンウィンを守るかのように、彼女の後ろにぴったりとついて歩いていた。


 村長はすぐに見つかった。

 彼は雨乞いをしている集団の先頭にいた。


「半年ほど前からずっとこの調子なのです」


 村長は話し始めた。


「秋の刈り入れが終わった頃、一人の娘が道端に倒れているのを、村の者が見つけました。

 私たちは憐れに思って、その娘を助けたのですが、娘が村に来てからというもの、めっきり雨が降らなくなりました。

 そこで娘を追い出すべきだと主張する村人たちの声が大きくなって来た頃、娘は突如、跡形もなく姿を消しました。

 しかし、それからも干ばつは終わらず、冬だというのにカンカン照りの日々が続き、やがて井戸は枯れ、近くの小川も枯れてしまいました。

 今では、私たちは水を得るために1マイル先の小川まで水を汲みに行っております。

 刈り入れの時の蓄えが残っているから良いものの、この調子では作物が育たず、今に餓死することでしょう」


 その娘の正体がメルダインであることは間違いない。

 一見、無害そうに見えることも、人の優しさに漬け込む手口も、リトワニー村と同じだ。


 シャロンウィンはダンジェリー村をどうやって復活させようかと考えあぐねた。

 苗の植えようもないほど乾ききってひび割れた畑から植物の芽を生やすことはできるだろう。

 だが、それでは時間がかかりすぎて全ての畑に手が回らず、不公平になってしまう。

 それに、人々が丹精を込めて育てた作物にこそ価値があるのだ。

 シャロンウィン一人の力で畑を豊かにしても、解決にはならない。


「ここに、雨を降らせるわ」


 シャロンウィンは高らかに宣言した。

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