18, 帰路
「お嬢様、本当にそろそろ帰らなくてはなりません。暗くなる前にドルウェット城に着きとうございます」
ペートルヒェンがこのセリフを言うのは、もうこれで5度目だった。
「え~、まだ帰りたくないわ。作業が終わってないのに~」
シャロンウィンは口を尖らせた。
彼女は今、さっきバケツを渡してくれた人の畑を耕すのを手伝っているところだった。
「お嬢さん、ここまでやってくれたら、後はもう大丈夫だよ。いやあ、本当に助かった。ありがたや、ありがたや」
畑の持ち主ドミーも空気を読んで言った。
彼はとても善良な農民なのだ。
「それなら、いいわ。もう帰ることにする。遅くなったら、ペートルヒェンが王様に怒られるんだものね」
シャロンウィンは、アルトリア王の名前は「王様」なのだと思っていた。
みんながそう呼ぶからだ。
このように身分というものを全く理解していないシャロンウィンだったが、昨日からドルウェット城で過ごしていたおかげで、何となくアルトリア王が一番偉い人らしいことが分かってきていた。
そして、自分が悪いことをしても、ジャールやマーウェルのようにはギルベッカに𠮟られないで済むということも。
一行は、ペートルヒェン、シャロンウィン、ジャールの順に並んで馬を進めた。護衛二人はシャロンウィンの両脇に控えている。いつも一人で行動することに慣れているシャロンウィンにとって、四方に人がいるのは落ち着かなかったが、アルトリア王にこうしろと言われたから仕方がない。
ダンジェリー村が見えなくなってきて間もなく、西の空がオレンジ色に染まってきた。
「ほら、シャロンが頑固なおかげでもう日が暮れちゃうよ」
ジャールは呆れて言った。
「だって、ドミーのお手伝いが楽しかったんだもの。ドミーって、とっても面白い人でね……」
シャロンウィンはその続きを言うことが出来なかった。
シャロンウィンの本能が、瞬時に危険を感じ取っていたのだ。
シャロンウィンは馬を止まらせた。
「何かがいるわ」
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