59, 事件
「マーウェルが、自殺した」
アルトリア王が言ったのはそれだけだった。
それしか言えないほど、アルトリア王も動揺していたのだろう。
――マーウェルが、自殺した
その事実を受け入れるまでに、シャロンウィンはしばしの時間を要した。
ほとんど話したことがないとは言え、侍女として毎日顔を合わせていた人が亡くなったと知ったら、とりわけそれが自殺であったなら、受け入れられないのは当然のことだ。
「どうして? どうしてマーウェルが?」
それが、シャロンウィンがやっとのことで口にできた言葉だった。
「裏切り者は彼女だった。マーウェルは、自分が犯した罪の重さに耐えきれなかったのだろう」
既に痛めていた場所を、思い切り殴られたような気分だった。
痛みより、衝撃の方が先にきた。
アルトリア王が言った言葉の意味が理解できなかった。
マーウェルが自殺をして、さらに彼女はメルダインの手下だった?
信じられない。
「受け入れ難いのはよく分かる。だけど、これは本当なんだ」
「どうしてマーウェルが裏切り者だなんて言えるの?」
確かにマーウェルは誰とも打ち解けず、無口だった。
だが、ブランデンに毒を盛るような人ではないはずだ。
「マーウェルは、ブランデンの菓子に入れたのと同じ毒を大量に飲んで自殺した。
そして、彼女の遺書には彼女のしたことが書かれていたんだ。
彼女はコールボール出身だそうだし、何よりマーウェルはこんなイヤリングをつけていたんだ」
「蛇の印……」
アルトリア王の手に乗ったイヤリングには、メルダインの蛇の印が刻まれていた。
それを見て、シャロンウィンは自分がこの事件を信じられないのではなく、信じたくないだけなのだと思い知らされた。
マーウェルは皆がお菓子を食べようとした時、一人だけそれを食べようとしなかった。
それは彼女が毒を盛ったからだと考えれば、辻褄は合うのだ。
それに、マーウェルがいつもびくびくした様子だったのも、メルダインと通じていたからなのかもしれない。
「マーウェルは病気の母に薬を買うため、金が必要だったらしい。そして、金をもらうためにメルダインの手先となった」
それを聞いても、シャロンウィンの気持ちはちっとも楽にならなかった。
いくら母のためとは言え、マーウェルがしたことは間違っている。
「カラメリアで君たちが遭遇した盗賊も、彼女が手引きしていたようだ。
私と私の護衛がいなくて、さらに君が皆から離れて寝ている時を狙って、盗賊にブランデン王子を襲わせたのだ」
やはり、ブランデンが盗賊に関して抱いていた違和感は間違っていなかった。
盗賊はメルダインの回し者で、彼女がコールボールを支配する時に邪魔者となるブランデンを排除しようとしたのだ。
馬上槍試合でサー・ヘッドランに毒を盛ったり、ブランデンがドルウェット城に匿われていること、アルトリア王と共にカラメリアに出かけていることを知らせたりしたのも、マーウェルに違いない。
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