60, さらなる裏切り者

「さて、私はブランデン王子が心配なんだが、シャロンウィン、君が様子を見てきてくれないか? まだ病み上がりなのに、事件の話を聞いてひどく動揺してしまっただろうから」


 アルトリア王は、シャロンウィンに何か別のことを考えさせるためにそう言った。  アルトリア王は、自分の配慮が足りなかったと思い、後悔していたのだ。


「ええ……そうね。ジャールも一緒に来てくれる?」


「うん」


 二人は部屋を出て、ブランデンが休んでいる部屋に向かった。

 しばらく無言で歩いていたが、途中でシャロンウィンは立ち止まった。


「待って、ちょっと気になることがあるの。アルに相談してくるから、先にブランデンの所に行っててちょうだい」


「ああ、分かった。随分ショックを受けていたみたいだけど、大丈夫かい?」


「平気よ。心配しないで」


 シャロンウィンは少しだけ微笑み、アルトリア王の部屋へと急いだ。


 幸い、アルトリア王はまだペートルヒェンと共にそこにいた。


「ねえ、マーウェルがこっちの情報をメルダインに流していたとしたら、辻褄の合わないところがあるわ」


「どういうことだい?」


 アルトリア王はシャロンウィンに椅子に座るよう促しながら言った。


「私がドルウェット城に来たことも、ブランデンがここにいることも、マーウェルはどうやってメルダインに知らせたのかしら?

 メルダインが拠点にしていたコールボール城はここから何日もかかる場所にあるでしょ?

 だけど、私は毎日マーウェルと顔を合わせていたわ。

 一番分からないのは、私たちがダンジェリー村に行ったその日の夕方にはもう道に暗殺者が潜んでいたことよ。

 メルダインが元からロンデルフィーネ王国にいた暗殺者を仕向けたと考えても、どうやってマーウェルが半日でメルダインに私たちが行く場所を伝えたのかしら?」


 ペートルヒェンとアルトリア王は顔を見合わせた。


「と、いうことは……」


「ドルウェット城に、まだ、裏切り者が、いるということだな」


 アルトリア王が重々しく、一言づつ区切るように言った。


「シャロンウィン、ペートルヒェン、まだ警戒心を解かないでくれ。マーウェルでさえ裏切り者だったのだ。もはや誰が信用できるのか分からぬ」


 シャロンウィンは突然、とても恐ろしくなった。

 今までは良くないことが起こるとき、必ず本能が教えてくれた。だが、本能はマーウェルの裏切りに気がつかなかったのだ。


 もう本能に頼ることはできない。


 誰も信用できない。


 シャロンウィンの表情は自分でも気づかないうちに堅くなっていた。


「とにかく、シャロンウィンはブランデンの様子を見てきてやりなさい」


 アルトリア王は明るい声を出そうと努めつつ言った。


「そうね」


 シャロンウィンは軽く頷き、今度こそブランデンの部屋に向かった。

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