34, 蛇

 二人の騎士がぶつかり合う寸前、シャロンウィンの視界に、あるものが飛び込んできた。

 それは、観客席にいる貴婦人の胸元に付いているブローチだった。


――なぜ、こんなものに興味をそそられたのだろう?


 だが、間違いなくシャロンウィンは以前にもそれを見たことがあった。


 シャロンウィンの頭は目まぐるしく回り始めた。


――何かしら? どこで見たの?


 シャロンウィンは一瞬のうちに、あらゆる記憶を辿った。


――そうだ!


 これは、ドルウェット城に初めて来たときに見た、城の壁に刻まれていた不気味な蛇の印。

 そして、あの暗殺者のマントを止めるブローチに刻まれていた印と同じものだ。


――でも、なぜ? この貴婦人と、ドルウェット城の石壁と、暗殺者には何の関係が?


――それに、さっき感じた違和感の正体は何だ?


 何かが間違っていると、直感が告げている。


 シャロンウィンはハッとしてゴルバス王の隣の席に座る婦人を見た。



 最初に彼女を見た時に覚えた違和感は間違っていなかった。


 シャロンウィンは確信した。


――あの人はメルダインじゃない


 ならば、本物のメルダインは……


――あの人だ!


 シャロンウィンは再び、蛇のブローチを付けた貴婦人に目を向けた。


 マントを目深に被っているせいで目は見えなかったが、色っぽい真っ赤な唇がニヤリと笑ったのを、シャロンウィンは見た。

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