13, 決心

 メルダインが急にブランデンの縛めを解いたので、ブランデンは前につんのめった。

 それから、急いでルヴェーヌ王妃の様子を見た。

 王妃は痛みを押し隠して大丈夫な振りをした。


「母上、どうしてあんなことを! 危険ではないですか!」


「お前がメルダインに殺されるのを黙って見ているわけにはいきません。お前こそ、 

 どうしてあいつに決闘を挑んだのですか?」


「それは、誰かがあいつを止めなければならないからです」


 しっかりとした息子をルヴェーヌ王妃は頼もしく思った。

 だが、ブランデンにも出来ることと出来ないことがある。


「メルダインを止めることは誰にも出来ません」


 ルヴェーヌ王妃は断固とした口調で言った。

 しかし、ブランデンがあまりにがっかりした顔をするから、こう付け足した。


「噂では、ロンデルフィーネ王国のはずれの森に住む少女にはメルダインを倒す力が

 あるとか。噂ですから、しかとは分かりませんが」


 ブランデンの目に希望が戻ってきた。


「ならば、その少女を連れてきましょう。試す価値はあります。どの道、そうする他 

 に手立てはないのですから。

 私が行って参ります。このことは出来るだけ人に知られない方が良い。メルダイン 

 に話が伝わると困るから」


「それでは、一人で行くつもりなのですか? あんな遠くへ?」


 ブランデンがもう立派な青年であることを知っていながらも、王妃は息子が心配でならなかった。


「はい。ドルウェット城に行ってから、アルトリア王に支援を頼みます。

 メルダインの悪の手はロンデルフィーネ王国にも及んでいますから、少女の捜索に 

 人員を割くことをアルトリア王は渋らないでしょう」


 ブランデンの瞳には、固い決意の色が見て取れた。

 ルヴェーヌ王妃は、可愛い一人息子が決して安全とは言えない旅に出ることを止める手立てはないのだと悟った。

 それなら、自分に出来る限りのことをするしかない。


「わたくしも参ります」


「母上! 何をおっしゃるのですか? 危険な旅なのですよ」


 ブランデンは抗議したが、ルヴェーヌ王妃には諦めるつもりがないことも分かっていた。


「メルダインがいる限り、安全な場所などありません。コールボールにいても危険は 

 同じなら、あなたと共に行くまでです」


「母上……」


 命の保証もできない旅に母を連れて行くのは気が進まなかったが、コールボール城にいれば、遅かれ早かれメルダインに危害を加えられるのも確かだ。


「さあ、ぐずぐずしている暇はありません。夜を冒して今すぐロンデルフィーネに向けて発ちましょう。出発までの時間が延びれば延びるほど、メルダインに気づかれやすくなりますから」


 ルヴェーヌ王妃はブランデンを急かすように言った。


 ブランデンは覚悟を決めた。


「分かりました。それでは、目立たない服に着替えて、裏口があるキッチンで待って 

 いてください。馬は後で町に行って買いましょう。

 よいですか? 誰にも姿を見られないよう、くれぐれも注意してください。

 母上が最も信頼している侍女にさえ、このことを言ってはなりません」


 ルヴェーヌ王妃は短く頷き、急いで自室に戻って行った。

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