10, リトワニー村の悲劇
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ある夜、リトワニーの宿屋に物乞いの老婆が来て、一晩泊めて欲しいと頼んだ。
親切な宿屋の亭主はそれを承諾し、老婆に温かい食事と宿を提供した。
しかし、それが命取りとなった。
真夜中、老婆は宿屋に魔法の火をつけた。
その不思議な炎はあっという間に燃え上がり、次々と周りの家を焼いて、ついには村全体を吞み込んでしまった。
やっとのことで火が消えた時には、もう朝日が昇っており、村は灰と化していた。
生き残ったのは、老婆の行動にいち早く気づいた宿屋の亭主と、他の数人だけ。
そして、老婆は跡形もなく消え去っていた。
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「なんてひどい……。その老婆がメルダインなの?」
「ああ。メルダインは、醜い老婆にも、豊艶な美女にもなれる。噂では、フクロウや
カラスに姿を変えることもできるという。
何よりはっきりしているのは、メルダインには人の心も、憐みもないということ
だ。同じような出来事は、他の小さな村々でもあった。そして、メルダインの襲撃に遭った村では、その後決して作物が育たず、水は枯れ、土も荒れて家が建てられない。
私はその出来事があってからすぐに、小さな村でも門を強化し、兵士を派遣して、見知らぬ人を入れないようにさせてはいる。
だが、コールボールの魔女は狡猾だ。次に何をしてくるかは分からない」
「サリヴァンダーは、私がそんな魔女からこの国を救えると言っているの?」
正直なところ、シャロンウィンにはメルダインと対峙できる自信がなかった。
「そうだよ。君には失礼かもしれないが、私も君のような純粋な少女が、あんな悪の
塊と戦えるのだろうかと疑問に思っている」
アルトリア王にそう言われても、シャロンウィンはちっとも気にならなかった。
むしろ、自分でもその通りだと思っているくらいなのだから。
「サリヴァンダーは、どうして自分でメルダインを倒さないのかしら?」
「賢者の考えや行動は常に謎に包まれている。『助言を求めるなら賢者以外』という
ことわざまであるほどだ。賢者の助言ほど意味の分からないものはないからな」
そこで二人は場違いなくらい大笑いした。
「そのことわざ、気に入ったわ。賢者の助言って、ちっともありがたくないもの。サ
リヴァンダーに、時が来るまでフェルカの森で暮らせって言われたおかげで、私は
街で騾馬を暴走させて、パンを盗んで、友達に握手の仕方を教えてもらう羽目にな
ったんだから!」
アルトリア王はそれを聞いてまた笑った。
束の間、王の瞳は長いこと癒えることのなかった悲しみを忘れ、心の底から笑っていた。
しかし、その束の間が過ぎると、アルトリア王にどこか物寂しげな表情が戻ってきた。
「さあ、遅い時間だから、君はもう寝なさい。部屋に戻る道は分かるかい?」
「ええ、大丈夫よ。楽しい夕食だったわ。おやすみなさい」
「お休み、シャロンウィン」
シャロンウィンはどこか温かい気持ちで食堂を出た。
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