11, コールボール城
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「ゴルバス、わたくしのことが分からないのですか?
わたくしはルヴェーヌでございます。あなたの妻でございます。以前はわたくしのことを愛してくださったではないですか。そんなあなたは何処へ?」
夜遅く、コールボール城の居間で、王妃ルヴェーヌは国王ゴルバスの近くに跪いていた。
「私は誰をも愛したことはない。我が愛しきメルダインを除いては」
ゴルバスの声は冷たく、声は氷のようだった。
「ああ、ゴルバス……」
ルヴェーヌ王妃は泣き出した。
その様子をこっそり見ていたコールボールの若き王子ブランデンは、我慢できずに物陰から飛び出ると、優しく王妃の肩を抱いた。
「父上、なぜそのようなことをおっしゃるので? 母上を愛していらっしゃらないの
ですか? 私を愛してはくださらないのですか? どうしてあのような悪女の言い
なりになるのですか?」
ゴルバス国王が口を開くより早く、背後から魅惑的な声が聞こえてきた。
「悪女とは、随分ひどい言いようだ。わらわが何かしたとでも?」
そこに立っていたのは、ぞっとするほど美しい女性だった。
濡烏色の艶やかな髪を腰までたらし、蝶の触覚を連想させるまつ毛に縁どられた目は角度によって色が変わって見える青紫色だった。
彼女は妖しくも魅力的なワインレッドの唇を少しすぼめ、小首を傾げてブランデンを見ていた。
「貴様、父上をたぶらかし、母上や国民たちを苦しめ、挙句の果てには他国に侵略ま
でして、一体何様のつもりだ!」
ブランデンは腰に下げていた剣の柄に手をかけた。
もう、こいつのやりたいようにはさせまい。
今夜こそ、この魔女を殺してやる。
父上の愛人であろうが何であろうがどうでもいい。
居間に隠れていたのだって、元はと言えばこのためだ。
「わらわは恐ろしき魔力の使い手、美しの君メルダインだ。わらわの邪魔をする者に
は容赦しない」
そう言うと、メルダインは透き通るように白くほっそりした人差し指をブランデンに向けた。
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