9, 夕食
「では、君はあの部屋を気に入らなかったんだね」
アルトリア王は悲しそうに言った。
シャロンウィンとアルトリア王は今、大きな食堂の大きなテーブルで二人きりで夕食を食べていた。
他には給仕の少年と数人の召使いが控えているだけで、食堂はがらんとしていた。
「まさか! とっても素敵な部屋だったわ」
「だけど、君はさっさとあの部屋から出て行って中庭で遊んでいたのだろう?」
アルトリア王は、シャロンウィンが彼を喜ばせるために噓を言っていると思ったようだ。
蠟燭の光の下では、アルトリア王の瞳はなぜか深い悲しみに満ちていて、随分と老け込んでいるように見えた。
「だって、ずっと外で過ごしてきたから、部屋の中が窮屈に思えるんだもの」
「君は、フェルカの森に戻りたいかね?」
シャロンウィンは答えるのをためらった。本音を言えば、もちろん帰りたい。
だが、ロンデルフィーネ王国の救世主になることが、サリヴァンダーからシャロンウィンに課された使命だ。
その方法はまだよく分からないが。
シャロンウィンの心を見透かしたように、王は言った。
「賢者サリヴァンダーは、君がロンデルフィーネ王国を救うだろうと言ったが、君の
力を借りるかどうかは私が決めることだ。
もし君がここにいたくないなら、帰っても構わないのだよ」
シャロンウィンは悩んだ。
ドルウェット城は自分に合わない気がする。
フェルカの森の爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込んで、チェルニーと一緒に森中を駆け回りたい。
でも、フェルカの森に帰ったら、ロンデルフィーネ王国はどうなるのだろう。この国には一体どんな危険が迫っているのだろう。
ペートルヒェンやジャールにはもう会えないのだろうか。
アルトリア王の悲しみを和らげることはできないのだろうか。
それに、石壁に刻まれたあの不気味な印……
「もう……帰れないわ。……帰ってはいけない」
シャロンウィンは呟いた。
それから、少し考えて言い直した。
「……いいえ、帰りたくないの」
シャロンウィンは、アルトリア王の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「そうかい、決心してくれてありがとう。
さて、ここに残ると決めてくれたからには、この国が直面している危機についても
教える必要があるな」
アルトリア王は身振りでパンを勧めてくれたが、お腹がいっぱいだったシャロンウィンは首を振った。
それから、王の話を聞くために姿勢を正した。
「この国は一見、とても栄えていて何の問題もないように見える。だが、実際はそうではない。
北方から忍び寄る闇は日々濃さを増し、人々は方々に姿を現す不気味な老人の噂を囁いている。
簡単に言うと、ロンデルフィーネ王国は、隣国、コールボールの魔女、メルダインに狙われている。
メルダインは王族でも貴族でもないが、不思議な力を操ることができ、コールボールのゴルバス国王をたぶらかして、政治の実権を握っている。
コールボールを支配したメルダインは、今度はロンデルフィーネまでもを乗っ取る気でいるのだ。
いや、実際に攻撃は始まっている。
皮切りはコールボールとの国境に面する北西の村、リトワニーだった」
アルトリア王は、シャロンウィンが今まで見たことのない、激しい怒りの表情を浮かべていた。
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