20, 魔力
突然、地面に物凄い衝撃が走った。
ゴーーーー
大地が大きな唸り声を上げたかと思うと、暗殺者の真下の地面が大きく持ち上がり、土や泥もろとも暗殺者は空高くに勢いよく噴き上げられた。
地面を噴き上げたのが自分だと理解するまでに、シャロンウィンはしばしの時間を要した。
やがて、空高く噴きあがった土はドッと地面に落ちてきた。
同時に暗殺者も激しく地面に打ちつけられる。
彼は弱々しい呻き声を上げた。
シャロンウィンは自分の力が、いや、自分のことが怖くなった。
ところが、シャロンウィンの力は制御出来なくなっていた。
暗殺者がさっきまで隠れていた茂みがグネグネと伸び、暗殺者の足に巻き付いた。
暗殺者は弱り切って、もう抵抗することさえ出来ない。
――落ち着け。もう脅威は去った。暗殺者は無力だ。
シャロンウィンは自分に言い聞かせて力を抑えようとしたが、かなわなかった。
シャロンウィンにはつい最近まで魔法という概念さえなかったのだ。
制御の仕方が分からないのも当たり前だ。
普段は、シャロンウィンが止めようとしなくても、魔法の方が勝手に終わる。
だが今、茂みは伸びるスピードを増していき、暗殺者をますます強く締め付けた。
――だめだ。この人をこれ以上苦しめてはいけない。死んでしまう。
確かにこの人はシャロンウィンを殺そうとした。だが、自分にこの人を裁く権利はないはずだ。どんな理由があっても、無抵抗な人を殺すことは許されない。
いくら野育ちとは言え、シャロンウィンにもそれくらいのことは分かっているはずだった。
――それなのに、それなのに……
シャロンウィンの力によって伸びる茂みの勢いは止まらなかった。
シャロンウィンは自分の中に悪魔を見た。
――ガラス玉のような無慈悲な目をカッと見開き、もだえ苦しむ人を見て一種の快感を覚える悪魔
――そう。まるで、メルダインのような悪魔が。
「お嬢様、もうおやめください! あなたはロンデルフィーネ王国の救世主。魔女ではありませぬ」
気づけば、ペートルヒェンが護衛の手を振りきってシャロンウィンのすぐそばまで駆けつけていた。
ペートルヒェンは真っ直ぐシャロンウィンの目を見つめた。
ペートルヒェンは、リンデットでシャロンウィンが起こした風を知っていた。
シャロンウィンの力の強さも、不安定さも知っていた。
シャロンウィンは我に返った。
ヒースはやっと暗殺者を締め上げるのをやめた。
ペートルヒェンは何も言わずに、震えが止まらないシャロンウィンを優しく抱きしめてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます