53, 懐かしの森

「チェルニー……」


 シャロンウィンは呟いた。

 そして、自分でもどうやったのか分からないが、シャロンウィンは数ヶ月ぶりに懐かしい大親友の背中に乗っていた。


 シャロンウィンの愛しき故郷を目指して、チェルニーは走った。

 俊足を誇るロンデルフィーネ王国の馬たちと比べても、チェルニーは圧倒的に速かった。

 疲労困憊してチェルニーの鬣にしがみつく程の気力もなかったはずだが、シャロンウィンは一度も落馬することなく、フェルカの森にたどり着いた。


 シャロンウィンは大きく息を吸った。


 ああ、懐かしい故郷の香りがする。


 土と、木と、葉の香り……


 西日に照らされた葉がつやつやと輝いている。


 フェルカの森の空気を吸うにつれ、シャロンウィンは力が蘇るのを感じた。


 あの日、ペートルヒェンと共に森を出てから随分長い年月が経ったような気がする。

 あの時と比べ、私はどれほど変わったことだろう?


「プレテリーアはどこにあるのかしら? チェルニー、私たちはどこに行けば?」


 シャロンウィンは突然、自分がプレテリーアについてほとんど何も知らないことに気づいた。

 フェルカの森のことなら何でも知っているが、今までそれらしきものを見たことなどない。

 いや、見たことがあったとしても、それがプレテリーアなのかは分からない。

 それに、プレテリーアを見つけても、どうやって使えば良いのだろう。


 だが、チェルニーは何もかも知っているかのように迷いなく走り続けた。


 どれくらい経っただろう? チェルニーは不意にピタリと立ち止まった。

 シャロンウィンはハッとした。

 チェルニーの背で揺られているうちに、いつしか眠りに落ちてしまったようだ。


 チェルニーが急に立ち止まったので、寝ぼけたシャロンウィンは彼の背から投げ出され、地面に落ちてしまった。


「ほっ、ほっ、ほ。相変わらずだな」


 シャロンウィンは顔を上げて声の主を見た途端、言葉を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る