54, 思いがけない再開

 以前彼に会ったのは、シャロンウィンがまだうんと小さい時だった。

 だがおぼろげな記憶の中で、彼ははっきりと印象づけられていた。


――濃紺のローブととんがり帽子、長く伸ばした白い髭、いたずらっぽくキラリと光る青い目


「サリヴァンダー……」


「元気にしておったか?」


 シャロンウィンは長いこと、あんぐりと口を開けてサリヴァンダーを見ていることしか出来なかったが、しばらくしてここに来た目的を思い出した。


「プレテリーアが必要なの」


「そんなことは知っとる。好きなだけ持っていくが良い」


「でもどこに……」


 サリヴァンダーはシャロンウィンの言葉を遮るように、彼女の目の前の地面を指さした。


「あっ」


 サリヴァンダーにばかり気を取られていて、今まで気がつかなかった。

 シャロンウィンの目の前には、この世のものとは思えないほどの美しい花が咲いていた。

 黄金色の花びらをもち、微かに光を放ちつつ、凛として佇んでいる。

 その素晴らしさはとても言葉で言い尽くせない。

 シャロンウィンはしばし、その花に見惚れていた。


「この器にプレテリーアの蜜を入れて、ブランデンに飲ませるのだ」


 サリヴァンダーはそう言いながら、シャロンウィンに木の器を差し出した。

 サリヴァンダーがブランデンを知っていることに、シャロンウィンは何の疑問も抱かなかった。

 サリヴァンダーの前で理屈は通用しない。彼は全てお見通しなのだ。


 シャロンウィンは木の器を受け取り、プレテリーアの傍に置いた。

 すると、プレテリーアの花びらから黄金の雫が滴り落ち、少しずつ器に溜まっていった。

 自分から蜜を出す植物なんて、植物に詳しいシャロンウィンも初めて見た。


「どうしてアルに助言を求められたとき、私がロンデルフィーネ王国を救えるだなんて言ったの?」


 器が蜜で満たされるのを待つ間、シャロンウィンはサリヴァンダーに尋ねた。


「それは、ロンデルフィーネを救うことが、お前の運命だからだ」


「でも、そんな言い方ってズルいわ。どうして自分でメルダインを倒そうとしないの? あなたの方が、私なんかよりずっと大きな力を持っているのに」


 シャロンウィンは口を尖らせた。


「ほっ、ほっ、ほ。これは力の強さの問題ではないのだよ。例えそうであってもメルダインのような者と戦うには、わしは年を取り過ぎた」


「そんな……」


 シャロンウィンは返す言葉が見つからなかった。

 というのも、シャロンウィンが幼いときから彼の見た目は全く変わっていないのだ。

 とても歳をとっているようで、実はそうでないような、不思議な雰囲気を醸し出している。


「さあ、ここでのんびりしている時間はないぞ。ブランデンに死が迫っておる。急がねば間に合わんぞ」


 シャロンウィンは慌てて立ち上がり、器を大きな葉で包んで中の蜜がこぼれないようにすると、持ってきた布のポーチに入れた。

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