4, 魔法の力
シャロンウィンはペートルヒェンのもとに駆け寄ってきた。
「ペートルヒェン、大丈夫? 私のせいでごめんなさい」
「ご心配には及びません。私は平気でございます」
ペートルヒェンは痛みをこらえて立ち上がった。
シャロンウィンをできるだけ早く、今日泊まることになっているリンデット城に連れていかなければならない。
人間の生活を知らず、不思議な力を持つ彼女に街を歩かせるのは危険だ。
悪気がなくても、自分や他人を傷つけてしまう可能性がある。
「お嬢様は、魔法の力をお持ちなのですね」
ペートルヒェンは言った。
不思議なことに、彼はシャロンウィンの力を目の当たりにしても、ちっとも恐怖を感じず、むしろ納得した。
最初会ったときは、まだほんの15歳くらいの純粋で風変わりな少女が、本当にロンデルフィーネ王国の救世主になるのだろうかと疑っていた。
だが、彼女の力を見てからは、やはり賢者サリヴァンダーの助言が正しかったと確信したのだ。
「マホウ?」
「はい。お嬢様はさっき、留め金を外したり、風を吹かせたりしたでしょう? そう
いう不思議な力のことを私たちは魔法というのです」
すると、シャロンウィンは意外なことを言った。
「私は、自分の力が不思議だとは思わないわ。ペートルヒェンには分かる? 花はい
つ開くのか、風はどこから吹いてくるのか、熟れた木の実はどうして地面に落ちる
のか」
「いいえ、分かりません。それは、そういうものではございませんか」
ペートルヒェンは、シャロンウィンが何を言いたいのか分からないまま答えた。
「そうよ。そういうものだわ。私の力も同じだと思うの。私は、花が咲くように、風
が吹くように、木の実が熟れて地に落ちるように、この力を使うの。とても自然
で、当り前のこととして」
ペートルヒェンはうなずいたが、本当は完全に理解できたわけではなかった。
シャロンウィンの力は、理屈では説明できないものであり、どう考えても不思議なのだ。
「もう一つ、質問してもよろしいでしょうか?」
ペートルヒェンは聞いた。
彼は職業柄、質問することを極力避けていたが、シャロンウィンのことに関しては、好奇心に勝てなかった。
「お嬢様は、賢者サリヴァンダー様の御娘か、血縁関係の方でいらっしゃいます
か?」
ペートルヒェンの知る限り、シャロンウィンのように魔法が使えるのはサリヴァンダーだけだ。
「違うと思うわ。幼い頃はサリヴァンダーに育てられたけど、私は彼の娘じゃないと
思う。私の両親は分からないわ」
「さようでございましたか。無礼なことをお聞きしました。申し訳ありません」
「ところで、その手にお持ちの物は何ですか?」
シャロンウィンは、パンらしきものを手にとって、しげしげと眺めている。
「それを今聞こうと思っていたところよ。これ、何なの? 食べられる? ちょうど
お腹が空いてきたの」
シャロンウィンは、聞くが早いかパンを口に放り込んだ。
それから、しばらくモグモグしてから、「おいしい!」と満面の笑みを浮かべた。
「それは結構な事でございますが、お嬢様は世間では泥棒と言われるものになってし
まいましたよ。パンをもらったら、代わりにお金を払わなければなりません」
ペートルヒェンはため息をつきそうになった。
パン屋を探して、国王からもらった貴重な路銀をいくらか渡して来なければ。
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