67, 疑心暗鬼
次の日の朝早く、ブランデンとルヴェーヌ王妃はコールボールへと旅立った。
ドルウェット城にいる裏切り者にこのことが伝わると困るので、二人の旅立ちを見送ったのはアルトリア王とペートルヒェンだけだった。
二人が旅立つ前、ペートルヒェンがシャロンウィンを起こしにきたが、シャロンウィンは寝たふりをした。
取り乱さずにブランデンに別れの挨拶をする自信がなかったからだ。
窓の外を見ると、馬に乗ったルヴェーヌ王妃とブランデンが裏口からドルウェット城を出ていくのが見えた。
二人とも、黒いマントのフードを目深に被り、静かに馬を進めていた。
シャロンウィンは今にも雨が振り出しそうな曇り空を見上げ、ため息をついた。
今は、憤りは消え、悲しみだけがシャロンウィンの心を鋭いナイフのように突き刺した。
これで、もう二度とブランデンに会うことはないだろう。
「お嬢様、昨日から顔色が優れませんが、どうなさいましたか? 体調でも悪いのですか?」
太陽は分厚い雲に隠されていたが、恐らく正午くらいになったとき、ヘルリンナが部屋に入ってきた。
「悪いけど、今は一人にして欲しいの。しばらく入ってこないでちょうだい」
一人でいるより、友達と一緒にいることを好むシャロンウィンがこんなことを言うのは珍しかった。
「私はお嬢様を心配しているのです! 昨日の夕方から今まで、一人でいる時間はたっぷりあったではありませんか! どれだけ一人で部屋にこもっていれば気が済むのです? せめて何かお食べになってはいかがでしょう?」
――話しかけないで欲しいと言っているのに、どうしてリンナは部屋を出ていかないのだろう? まさか、何かを食べさせて、私に毒を盛るつもりなの?
「レディ・シャロンウィン、どうなさいましたか? ヘルリンナが何かご無礼をいたしましたか?」
例の耳障りな声と共に、ギルベッカが現れた。
「何でもないわ。とにかく、二人とも私に構わないで」
「しかし、レディ・シャロンウィン、ヘルリンナが何かしたのであれば……」
「構わないでって言ってるじゃない!」
――ギルベッカが裏切り者の可能性もある。最初から、私を孤立させようとしていたし
「は、はい。申し訳ございません」
ギルベッカはヘルリンナを半ば連行しながら、シャロンウィンの部屋を出た。
自分一人だけになった部屋は、とても静かだった。
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