51, 急変
次の日、シャロンウィンは召使いが運んできてくれた朝食を食べると、急いで馬小屋に向かった。
昨日まで乗ってきた馬はまだ疲れているだろうから、もっと持久力のある、別の馬を連れて行こう。
初めてジャールと会ったとき、彼がなだめようとしていた黒い暴れ馬なら元気に走ってくれるだろう。
シャロンウィン自身とて十分に休めたとは言えないが、ドルウェット城でこれ以上休んでいる時間はない。
「シャロン! 久しぶりだね。王様たちはまだお戻りになっていないけど、一体どうしたんだい?」
馬小屋に来ると、ジャールが声をかけてきた。
そこで、シャロンウィンは手短に事情を説明した。
ブランデンには反感を抱いていた様子のジャールも、彼が毒を盛られて生死の堺をさまよっていると聞くと、さすがに心配した。
「上手くいけば、私がプレテリーアを持ってドルウェット城に戻る頃に、アルたちがブランデンをここへ運んできているはずよ。お城の皆にも伝えておいて」
ジャールは短く頷いた。
「気を付けて、シャロン。必ず無事に帰って来るって約束してくれ」
ジャールがいつになく真剣な声で言うので、シャロンウィンもしっかりとジャールの目を見て
「約束するわ」
と言った。
そして、数秒後にシャロンウィンは馬上の人となり、美しい金髪をなびかせながら、ロンデルフィーネ王国一の駿馬でフェルカの森へと向かっていた。
馬を駆け足で進め、ドルウェット城が見えなくなった頃、シャロンウィンは急に胸騒ぎを覚えた。
「ブランデン……」
どういうわけか、ブランデンに死が迫っているような気がしてならないのだ。
背筋に悪寒が走った。
シャロンウィンは恐ろしくなり、馬を疾走させた。
□■□■□■
「お、王子が……ブランデン王子がお目覚めになりました!」
従者の声で、野営地全体が希望に包まれた。
ペートルヒェンは急いでブランデンが寝ているテントに駆けつけた。
ブランデンの息は苦しそうだったが、従者の言葉通り、彼は目を開けていた。
ブランデンは起き上がろうとしたが、傍に控えていた医者に慌てて止められた。
「ここは……?」
「テントの中でございます、王子。王子様は毒を盛られて、長いこと気を失われていました」
ブランデンはペートルヒェンに言われて、倒れる前のことを思い出したらしかった。
容態は快方に向かっているのかもしれない。ペートルヒェンは安心して微笑んだ。
「シャロンウィンは……?」
「フェルカの森に行かれました。そこにある花だけが、王子を救えるとおっしゃっておりましたゆえ」
「よかった。それなら……」
突然、ブランデンの様子がおかしくなった。
「王子! どうなさったのですか!」
ペートルヒェンの声も、ブランデンには聞こえていないようだった。
ブランデンは白目を剥き、狂ったように体中を痙攣させ、泡を吹いていた。
戸惑いとぞっとするような恐ろしさが同時にペートルヒェンを襲った。
「王子、王子、しっかりなさってください!」
束の間、野営地に訪れた希望はあっという間に絶望に変わってしまった。
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