50, プレテリーアを求めて

 希望と共に沈み始めた太陽を見つめながら、シャロンウィンは横たわるブランデンの隣に座り込んだ。


――駄目だ。ブランデンは助からない。私には、死にゆく人を黙って見ていることしかできない


 そのとき、シャロンウィンの頭の中で懐かしい声が響いた。

 低く、落ち着きがあり、それでいてどこかいたずらっぽい声……。


――如何なる治療も効果を示さず、あらゆる薬も無力で、全ての希望が潰えたように思えるときは、プレテリーアを探しなさい


「プレテリーア……」


 シャロンウィンは呟いた。


 遠い日の記憶が蘇ってくる。

 シャロンウィンがフェルカの森に住む前、サリヴァンダーはシャロンウィンに医術を教えてくれた。


――プレテリーアは幻の花。フェルカの森の奥深くで人知れず咲いている


 そうだ。ブランデンを救えるのはプレテリーアだけだ。


 思い出すが早いか、シャロンウィンはすぐにアルトリア王に言った。


「アル、プレテリーアという花があれば、ブランデンを救えるわ。今すぐ、探しに行かせて」


 アルトリア王は驚きつつ、護衛付きという条件で出かける許可を出した。

 だが、シャロンウィンは護衛を連れていくことに反対した。


「私一人の方が速く行けるわ。馬に乗るのも得意だし。自分の身は自分で護るから大丈夫よ」


 太陽が地平線に最後の光を投げかける頃には、シャロンウィンは馬に乗ってフェルカの森へと向かっていた。

 馬具の重みがなく、速さも駆け足に留めているため、馬は通常より長く走ることができた。


 シャロンウィンは馬のために短い休憩をとる他は、ほとんど休まずに走り続けた。  

 乗っている馬が疲れてくると、連れて来たもう一頭の馬に乗り換えた。


 一日中馬に乗り続けるのは、森で育ったシャロンウィンにとっても辛いことだったが、ブランデンのことを思えばちっとも苦にならなかった。

 むしろ、自分がのうのうと休んでいる間にブランデンが死んでしまうかもしれないと思うと、居ても立ってもいられなくなるのだ。


 そして三日目の夜遅く、ついにシャロンウィンはドルウェット城に着いた。

 三日三晩走り続けた馬とシャロンウィンは疲労困憊しており、さすがにドルウェット城で休まないわけにはいかなかった。

 運良く顔見知りの兵士が門番をしていたので、シャロウィンは難なくドルウェット城に入ることができた。

 シャロンウィンは2頭の馬を馬小屋に連れていき、自分も部屋に行くと、頭が枕につく前にはもう深い眠りに落ちていた。

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