57, 父と娘
「アルは、私のことを自分の娘みたいに思ってる?」
医務室から帰る途中、シャロンウィンは言った。
この際、気になっていたことを全部聞いてみようと思ったのだ。
「それは、どういう意味だい?」
「ペートルヒェンからフェリ王女の話を聞いたの。アルは全てを失って、とても辛かったでしょうね。亡くなった王妃様と王女様のことは、お悔やみするわ」
「何が言いたい?」
アルトリア王は辛い過去を思い出すまいとしていたようだった。
「思い出させてごめんなさい。だけど、気になって仕方がないの。アルが私に優しくしてくれるのは、私がフェリ王女と似ているからなの?」
アルトリア王はしばらく黙っていた。
シャロンウィンは、アルトリア王が怒ったのかと思った。だが、アルトリア王は驚いていただけだった。
「まさか。違うよ。
いや、最初はそうだった。だけどすぐにフェリはフェリだし、君は君だと気づいたよ。
誰もフェリの代わりにはなれないし、同じように君の代わりも誰もいない。だけど、君のことは娘のように愛してる。分かるかい?」
シャロンウィンは嬉しくて声が出なかった。そこで、何度も何度も頷いた。
「私も、アルのこと、お父さんみたいだって思ってるわ」
アルトリア王は普段滅多に見せない笑みを浮かべた。
「前に、私が君に心を救われたと言ったのを覚えているかい?」
「ええ」
そもそも、それがきっかけでペートルヒェンからフェリ王女の話を聞くことになったのだ。
「私はフェリとぺリノアが死んで以来、生きることに何の喜びも見いだせなかった。だけどとても生き生きとした君を見ているうちに、いつしか笑顔になっている自分に気づき、生きる喜びを思い出したんだ」
シャロンウィンは、アルトリア王に会ったばかりの頃、彼の上にのしかかる悲しみをどうにかして和らげたいと思っていたことを思い出した。
シャロンウィンは望んだ通り、アルトリア王の笑顔を取り戻すことが出来たというわけだ。
「さあ、長旅で疲れただろう。もう部屋に戻って休みなさい」
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