16 お茶のお誘い1
「オイ、イツマデ寝テイル」
暖かな陽気が眠気を誘う昼下り。リリスティアが頭を突かれる感覚に目を開けると、二つの丸がこちらを覗いていた。
「博士トイイ、マッタク……人間トハ本当二ドウシヨウモナイ生キ物ダ」
硬い金属音が擦れ、歯車が回る。
「フィッシュ、」
目を擦り、じーっとその塊を見つめる。しかし想像通り、それは鳥の形をしていた。
「……どうやって部屋に入ってきたの?」
「ソレハ言エナイ」
「…………そう」
ならばそれでいい。リリスティアは再び布団に潜り込み、体を反対側に向けた。
「寝ルナ!」
「……んん、……だって今日は休日よ?寝ようが騒ごうが私の勝っ手だわ」
「ソレハオレガ困ルカラ駄目ダ」
フィッシュに布団を奪われ、仕方なく体を起こす。
机の上で寝落ちするところだったところを、何とかベッドまで我慢したのだ。思い切り眠る気で寝たのに大して寝ることができず、リリスティアの機嫌は悪い。
「で、眠っているレディの部屋にわざわざ来るだなんて、どんな訳があるのかしら?」
頭の空に工業的な煙を上げながらリリスティアは言う。だけどせっかく来たのならと、魔石の粉末を小皿に出して机に置いた。
ンマンマンマ。ゴクンッ。
無我夢中で魔石に食らいつくフィッシュをリリスティアはじっと観察する。フィッシュのように高性能な
「教師ガ呼ンデイル」
「私を?……何かあったかしら?」
(もしかしてこの間出した不思議生物と遭遇した時の対処法が間違っていたとか?お母様に教わった通り、拳で解決するように書いたのがいけなかったのかしら)
確かに授業ではゆっくりを生物から目を離さないようにして距離をとるように言っていたが、常日頃から言われていた『困った時は拳を使え』という母の教えに引っ張られ、ついそう書いてしまったのだ。
「でもやっぱり最後は拳で解決するのが一番よね?」
だってそれが一番手っ取り早い。実際に母もそれで父と結婚し、幸せな日々を送っている。
フィッシュは不可解そうに首を傾げた。
「何ヲ言ッテイル?教師ハチョーカーノ点検ダト言ッテイタ」
「ち、違うのね……よかった」
声に出ているとは思わなかった。
恥ずかしさから、リリスティアは小皿に魔石を追加した。
「時間ガカカルカラ、サッサト日付ヲ決メタイラシイ。暇ナラ今ズグ。ソウデナイナラ都合ノイイ日ヲ言エ」
(行けないこともないけれど……)
なにせ寝起きで本調子ではない。時間がかかるなら尚更別日にやったほうがいいだろう。
「せっかく来てもらって悪いのだけれど、また今度伺うわ」
「ソウカ。ソレモマタイイ」
フィッシュからチョーカーの点検について書かれた紙を受け取る。確かにこれだけ大掛かりな魔法を常時発動させていれば、点検の一つや二つ必要だろう。
教えてくれてありがとうと、リリスティアはフィッシュの頭を撫でた。
「ここにいたんだね」
探したよ、と部屋のドアの内側に男が立っていた。男はフィッシュのように機械的なパーツが使われた、ウサギの仮面の頭をしている。右目は半目で奥が見えず、左目はレンズのようになっており周囲の歯車がカチカチと音を立てて回っていた。
──入学式でヒロインであるセーラを庇ったうちの一人、カミール・テレサだ。
「フン、オマエト違ッテ、オレハ忙シインダ」
「はは、手厳しいなぁ。でもいいの?博士が探してたけど」
「ナニッ!?ソレハ本当カ?」
「ほんとほんと〜だから早く行ってあげなよ。今頃溢れかえった部品に生き埋めにされてるかもしれないからね」
軽い調子でカミールがそう言うと、フィッシュはトラックが通り過ぎるかのような速度で走り去った。
「は、はやい……」
(というかやっぱり飛ばないのね)
普段はピョンピョンと跳ねて移動しているフィッシュにはマスコット的魅力があった。しかし鳥の姿をしているわりに一度も飛んでいるところを見たことがなかったため、重量的な理由で飛べないのだろうと邪推してしまう。
「さ、邪魔者はいなくなったし、これからオレとお茶でもしない?」
振り返ったカミールと目があった。
フィッシュといいカミールといい、乙女の部屋に勝手に侵入するとは、紳士的ではない。
「あ、今軽い人だって思ったでしょ?傷つくなぁ」
とても傷ついた風には見えない余裕を魅せるこの男と、いきなり部屋で二人きりとは笑えない状況だ。
(いい子だから戻ってきてくれないかしら?)
もうすでにここにはいないフィッシュに助けを求める。ジルはともかくとして、攻略対象との初の急接近だ。
対策も何もそんな心の準備すら、しているはずがなかった。
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