15 好感度


 イケカネの攻略において必要なのは好感度と選択肢である。


 攻略対象に好きなものをプレゼントしたり、そのキャラに応じた授業を受けて好感度を上げる。

 そして共通ルート終了時点で一番好感度が高かったキャラの個別ルートに入り、選んだ選択肢によりエンディングが別れる、といった仕様であった。




×××××



 〜リリスティア・クロード〜



 ──ニコラス:10


 ──エリク・スピーシア:25


 ──カミール・テレサ:15


 ──ジル・ブライド:30


 ──ルカ・ホワイト:25


 ──レオポルド:05


 ──アーロ・ブラウン:35


×××××



 万が一他の人に見られても困らないように詳細は書かれていない親切設計。

 ここにあるレオポルドとはニコラスの弟──つまりはこの国の第二王子である。


「思ったのだけれど、この人選はなんなの?私はニコラス殿下と話したことすらないのに」


 リリスティアはゲームの仕様だと知っているからいいものの、それ抜きで考えると謎メンすぎる。


「アンタとの運命度の高い人たちを集めたんスよ。ひょっとしてお気に召さなかったとか?」

 

 「知り合いがいてちょっとびっくりしたッスけど」とキアレスは少し複雑そうだったが、リリスティアはキアレスに渡された好感度を書かれた紙をじっと見つめていた。


「いいえ、むしろ上出来よ。期待以上だわ」


 紙から顔を上げてそう言った。


「本当はおれの名前も入れたかったんスけど」

「あら、入れてくれなかったの?」

「ひじょーに残念なことにね」


 はぁ……と頭の後ろで手を組みながらキアレスは言った。相変わらず本気なのか冗談なのかわからない。


 紙をめくり、二枚目に目を通す。

 セーラ・リシュッドと書かれたそれは、ヒロインであるセーラのものだ。




×××××



 〜セーラ・リシュッド〜



 ──ニコラス:40


 ──エリク・スピーシア:75


 ──カミール・テレサ:70


 ──ジル・ブライド:65

 

 ──ルカ・ホワイト:60


 ──レオポルド:25


 ──アーロ・ブラウン:55


×××××



 この中で一番数値の高い名前を見て、リリスティアは眉間にシワが寄った。


(メリル……)


 キャラによって好感度の上げやすさは異なる。そのためまだ比較的上げやすいエリクたちの好感度が高いことは当然の結果なのだがリリスティアは複雑な心境であった。


 これを見るにヒロインは順調に攻略を進めている様子。しかしそれに比べ、リリスティアはまだまともに遭遇してすらいなかった。

 焦る気持ちと不安を抑え、リリスティアはぎゅっと拳を握った。

  

(それにしてもこんな情報、どこから見つけてくるのかしら?)


 いくら情報通だからといって限度がある。しかも自分やセーラだけでなく他の女子生徒の依頼も受けているときた。 


(好感度が見えているとか?……まさかね)


 乙女ゲームの主人公じゃあるまいし。

 リリスティアは考えを取り払うように頭を振った。 


「キアレス。その、……ありがとう」


 リリスティアがお礼を言うと、キアレスは「いえいえ、お安い御用ッス」と歯を見せた。

 キアレスの顔も少しは見慣れたつもりでいたのだが、校章の頭普段とのギャップもあり、なんだかむず痒い。

 

「報酬はどうすればいい?」

「前にも言った通り、おれとオハナシしてくれるだけでいいッスよ」

「それじゃあ対価にならないわ」

「ノンノン、わかってないなぁ〜。なんてことのない情報から重要なことを見つける、これも情報屋としての基本中の基本だ」


 キアレスはチッチッチッと人差し指を振った。


 前に言われた時は建前でそう言っているのではと思っていたのだが、他の生徒の話を聞いても同じように対応しているらしくキアレスの真意は不明だ。


「ならいいけど、私話すのは得意じゃないの」


 リリスティアがそう言うと、キアレスは「そうッスか?おれはそんな風に感じたことはないけど」と目を細めた。


「……そ」

「あれ?もしかして照れてる?」

「…………うるさい」





「ねぇ、キアレス……」


「……ううん、なんでもない」



 メリルとエリクについて聞こうとしたが、寸前のところで思いとどまった。


(ここでメリルのことを聞くのは野暮ってものだわ)


 メリルなら大丈夫。それよりも自分はヒロインを止めなくてはいけないのだ。ヒロインの逆ハーレムにエリクを巻き込まないためにも頑張らないと。

 リリスティアの紙を握る手に力が入った。



***


「おーい!キアレス〜」

「あ!アーロくん!!」


 ぱあっ!と効果音が付きそうな勢いで、キアレスはアーロの元へ駆け寄る。


「知り合い?」


(というかキアレスったら女の子以外にも交流があったのね)

 などと失礼なことを考えてしまうが、情報通なら人脈が広くてもおかしくはない。しかもアーロは、学内でも頻繁にアーロの0距離配信と称して活動している配信者だ。なにかと情報を持っているのだろう。


「アーロくんとおれは仲良しなんスよ」

「ねー」


 シンクロするように息のあった二人の行動に、そうだったの!?と内心驚くリリスティア。


(ネットの向こう側の人、って感じだったのに実際に話してみると変な感じだわ)


 有名人に実際に遭遇してしまった感が拭えない。

 それにしてもまさかキアレスが攻略対象と交流があったとは。キアレスの言っていた"知り合い"とはおそらくアーロのことだろう。そりゃあ気まずくもなる。


「僕はアーロ・ブラウン。学内とか、それからマジホでも配信してるから、よかったら見てほしいな」


 相変わらずの神対応。

 画面の向こうと何ら変わらないその姿に、生きてる……と感動すら覚える。


「リリスちゃん、リリスちゃん」


 キアレスは肩をとん……と叩き、耳元で囁く。


「アーロくんは超有名人なんスよ。だからサインもらうなら今のうちッス」

「ちょっとキアレス……!」

「ふふ、もちろん知っているわ。有名だもの」


 自分のことのように嬉しそうにするキアレスは、本当にアーロと仲良しなのだろう。ビジネスではない関係に、いっそファンになりそうだ。


「私と、それから友達の分も。…………応援してます」


 そう言うとアーロは固まり、そして微笑んだ。


「ありがとう、嬉しいよ」


 実際に見るマゼンタ色の髪は、やはり目立っていて派手だった。 






「……リリスちゃん、アーロくんが好きなのはホイップクリームがたっぷりのったチョコソースましましの、あま〜いホットケーキッスよ」


 にやにやと面白そうな顔をしているキアレスの口を塞ぐ。


「ん?何の話?」

「な、なんでもないわ!」


 今言わなくてもいいのに!

 手の下から抗議の声が漏れ出ていたため、ぐっとさらに押さえつけた。


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