09 配信1


 真実の眼 (かもしれない)が発動したリリスティアは力を制御しようと試みたものの、成果はなかなか現れなかった。


「どうかしたんすか?」


 こちらを覗き込むメリルのなんと可愛らしいことか。すっきりとした短めの髪に加え全体的に彩度が低く、まるで雪の妖精のようだ。

 ……かわいい。とても可愛らしい顔をしている。


(あ、戻った、)

 

 可愛らしい雪の妖精から、見慣れた液体のような丸い頭へと戻っていく。


「……なんでもないわ。それよりもその、この後、時間は空いているかしら?」

「暇……ってことっすよね?それなら今日は特に何もないっすよ」

「そう、ならよかったわ」


 本来のヒロインの半分の力しか与えられていないため、真実の眼を常時発動することはできていない。そのため、いきなり素顔が見えるようになったり元に戻ったりとリリスティアの視界は忙しくしている。

 しかしこの力がなくとも今までだってやってこれたのだ。何とかなるだろう。 



「よろしければ私の部屋にいらっしゃらな、ひ?」


(か、噛んだ……!?)

 誘うのってこんなに難しいことだったかしら?と恥ずかしく思いながらも、リリスティアは平静を保とうと言葉を続けた。


「以前配信が見たいと言っていたでしょう?だから……その、」

「いいんすか!?わぁ……嬉しいです」

「そう……なら、よかった」


 嬉しさやら恥ずかしさやらでメリルの顔をまともに見れなかったが、誘えたのなら問題はない。メリルに合うだろうと買った花が無駄にならずに済んだ。リリスティアは、ほっと息を吐いた。



***


「ここがリリス様のお部屋……ちょー優雅っすね」


 部屋の間取りなどメリルの部屋と大して変わらないはずだ。それに模様替えだってしていない。しかしリリスティアがいるだけでメリルにはこの部屋が優雅に見えるのだ。


「へ、部屋に花を……!?とんでもなく優雅っす」


 花瓶には白い小花と淡い水色の可愛らしい花がさしてある。この花はリリスティアがメリルのために用意したものだ。

 リリスティアは頭の絵画に花を降らせ、その空は暖かな春の色をしていた。


「そうだ。メリル、紅茶は好きかしら?」


 リリスティアはぽん、と手を叩くと食器を用意し始めた。


「オコウチャ!?」

「苦手だったらミルクでもいいわ」

「の、飲んだことはないっすけど飲んでみたいっす!」

「……そう!そうね、せっかくだもの、遠慮しないで飲んで」


 ぱあっとリリスティアの頭に蝶が舞う。それも、空が隠れるほど大量に。


 目に見えてリリスティアは浮かれていた。


「こんないいもの、自分のとこでは飲めませんでした」


 リリスティアの真似をして、メリルは優雅にカップを傾ける。その姿はぎこちなくて、だからこそリリスティアは嬉しく思う。


「こんなによくしていただいて、自分はとても幸せものです」

「私もこんなに楽しいお茶の時間は初めてよ」


 前世はともかく、今世のリリスティアはサルディア学園に入学するため勉学に明け暮れていた。そのためろくに友人もおらず一人で過ごしていたのだ。両親があんな感じなため特に不満はなかったのだが、内心実は憧れていたのだろう。同じ年頃の同性と話すのがこんなにも楽しいだなんて思わなかった。


「メリル、貴女がいてくれるから、いつもより紅茶も美味しいの」


 だから一歩引かずに対等な関係になりたい。リリスティアは常々そう思っていた。 


「リリスさまぁ〜!!!」

「もう、リリスでいいって言ってるのに」


 抱きつくメリルの背を優しく叩く。


「そ、それはまだ心の準備が……」

 

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