10 配信2


 思う存分おしゃべりを楽しんだ後、本来の目的であった配信を見るために万年筆を取り出した。


「これが配信を見るために必要なものよ」


 魔導書型の通信機器と万年筆。それから専用のインクを用意する。ペン先にインクをつけ魔導書を開くと、この世界の文字で「アーロ 配信」と記入した。


 すると反対側のページに少しずつ色が浮かび上がっていき、動き出した。そこには校章の頭をした男のサムネイルが並んでいる。指の代わりに万年筆でスクロールするように紙をなぞった。使い心地は板タブを使用している感じに近い。


「な、なんすかこの本!?絵がっ、うごっ!動いてるっす……?!」


 メリルは驚きつつも興味が隠せない様子で、動いている箇所を指で突いたり魔導具自体を持ち上げて眺めたりしていた。 


「マジエラ魔術具師が発明した通信機器──マジホよ」


 この世界ではスマホのように気軽に連絡を取る手段がなく、専用のからくり人形オートマタに声を吹き込み録音させ、相手の元に行ったオートマタがそれを再生する、という方法で連絡を取り合っている。最近では少しずつ普及が進み、平民でも情報に目ざとい者なら所持していたりする。


 ホルス博士が発明したことから、このオートマタたちはホルホと呼ばれている。


 そしてこちらは──マジホ。

 魔石が組み込まれた魔導書型の通信装置に専用のインクで文字を書くと、その内容に応じて文字や映像が浮き出てくる仕組みだ。使用後インクは消滅し、魔導書は物にもよるが一、二年ほど経つと魔石が砕かれ使えなくなる。バッテリーとなる魔石の交換ができず、壊れたらまた新しく買い直す他ない。そして当然ホルホよりも高価だ。


「魔術具師って、魔法科学を利用して作る魔術具を作る人、っすよね?てことは自分もそのうち作れるように……!?」

 はっとしたメリルにリリスティアは答える。

「さあ、それはどうかしら。マジエラ魔術具師は変わり者の天才って有名なの。魔術具の殆どは彼が発明したものだと言われているわ」

「つまり…………」

「彼以外にはできない芸当ってことよ」

「そんなぁ…………」


 項垂れるメリルの口元にクッキーを運ぶ。

 それをメリルは、ぱくりと口に入れた。


「まあ、でも魔術具師じゃなくても、自分に向いているものを必ず見つけて極めてみせるっす」

「ふふ、そのいきよ」

 

 映像の共有化はここ数年で急速に普及し始めたもので、アーロはその前線で活動する配信者である。

 配信する側は専用の機材が必要ということで配信者の数は少ない。


『やあ皆!今日も来てくれてありがとう!!』


 マジホ内のアーロが語りかけてくる。

 万年筆で文字を書けば、それが画面上に表示されアーロが反応する。メリルに何か書いてみる?と聞くと、嬉々として書き出した。


 アーロ・ブラウンはイケカネの攻略対象ではあるものの、全キャラクリア後にしかプレイすることができない隠しキャラだ。だからリリスティアがアーロを攻略対象だと知ったのはネットでそういう呟きを見たから。なにせリリスティアがやったところではずっと校章の頭をしていたのだ。顔があるとさえ思ってはいなかった。


『なになに、「アーロくんを見に来ました」か、……コメントしてくれてありがとう。楽しんでいってくれると嬉しいな』

  

 アーロはにこやかにコメントを読んでいく。


「リリス様!自分の書いたやつが読んでもらえたっす!!」

「ふふ、すぐに読まれるなんて運がいいわね」


 未知の技術に興奮しているメリルの頭を撫でる。

 

(技術はまだまだ前世に及ばないというのに、どうしてこういうところは発達しているのかしら?開発側の好みが透けて見えるわ)

 マジホを作るなら、先に音声だけでも一般で使えるようにするべきだと思うのだが、この世界の技術の優先順位はどこかおかしかった。



『それじゃあ皆、ちゅうも〜く!!今回はゲストに来てもらったよ!じゃじゃん!出てきて〜未来のスーパーモデル〜』


 アーロの拍手と共に現れたのは水色のモヤに包まれた骸骨の頭をした男だ。男は少し中性的で、だけどちゃんと男性的な声をしていた。


『おい、そんなに持ち上げるんじゃねぇ』

『えぇ〜いいじゃん』


 二人の仲睦まじげな会話に、『だれだれ?アーロのダチ!?』『ちょ〜イカすじゃん!その服、どこで買ったのか教えてほし〜!』とコメントも盛り上がっている。


『こちら、ルカ・ホワイトくんで〜す!』

『どうも』


 ルカ・ホワイト。

 彼もまた、イケカネの攻略対象の一人である。 



 ──残る攻略対象はあと一人。


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