10 真打ち登場
『グレイソン!?あなた、門の番をしているはずよね?』
ロベッタの声に周囲がざわつく。
しかしグレイソンはその言葉に無反応で、何かを静かに探していた。
『セーラ、彼も知らない人?』
『い、いえ……彼はまあ、知らない……こともないというか、なんというか……』
できれば最後まで知りたくなかった人……、とセーラの声は引きついている。
そんなセーラの声を聞いたグレイソンがその姿を捉えた。しかしセーラは、グレイソンがこの場にいるという事実を認めたくないのか、視線を自分の膝に向けている。
『つまり複雑な関係の男の登場だぁ!!』
『間違ってはないけど、ちょっと語弊がっ……!?』
興奮しているアーロに、思わずセーラは立ち上がった。
そんなセーラにグレイソンは、「そこにいたのか……!」と飼い主を見つけた寡黙な犬のようにパッと表情を和らげる。
その様子に観念したのか、微笑みになりきれていない歪な笑みでセーラはグレイソンに問う。
「グレイソン!どうしてあなたが出場してるのよ!?」
──思わず演技質な自分を投げ捨てて。
見ての通りグレイソンは、明確なセーラの弱点であった。
「セーラは俺の孫も同然。どこぞの馬の骨とも知らん輩にくれてやる道理はない」
「だからあなたの孫じゃないの!!!」
ホラガイ型の魔導具など通さずに、何故か会話が成立している二人。いや、ある意味成立はしていないのだが──、もし、何故?と問われれば、グレイソンは迷わず愛の力だと答え、セーラが全力でそれを否定するだろう。
『言っとくけど、うちのおばあちゃんは死んだおじいちゃん一筋よ……!!』
我慢できなくなったのか、セーラは魔導具に向かって全力で叫んだ。それにより、小型のホラガイの近くに居た者の鼓膜がやられる。
「グレイソン、君は扉の番をしているはずだけれど、ここで何をしているのかな?……もしかして、何も問題はなかったというのも、嘘の報告だったのかな?」
(まずい、とても怒っているわ……。
というかどの面下げてやってきてるのよ!このバカは!?)
ニコラスの静かな怒りを肌で感じ、リリスティアもグレイソンの登場に内心酷く動揺していた。
王子相手に虚偽の報告をするとはとんでもない神経の持ち主である。そのおかげで助かったのだけれど。とリリスティアは思ってはいるが、本人に自分を庇うという意図があったのかというと、おそらくない、と考えていた。
「何を言っている。俺はちゃんと、『問題はなかったが、俺の永くも情熱的な愛の物語の続きが、ようやく見れそうだ』と言っただろう」
「……へぇ、あの訳の分からない報告が正しい情報だったと、君はそう言いたいんだね?」
あれと一緒にはされたくないが、自分ももう一人の存在を報告していない身なため、口出しはできない、とレオポルドは話に割り込めないでいた。
「俺の恋路における愛の使者を、
何故か満足げに頷くグレイソンに、これ以上余計なことを言うなと、レオポルドの額に嫌な汗が浮かんだ。
「兄上、こいつの相手はおれがさせてもらう」
ついに我慢できなくなったのか、余計なことを言う前に退場させたほうがいい。とレオポルドは前に出た。
「そうだね。お互い一戦ずつやった方が、公平だ」
***
リスティの相手をニコラスがしたということもあり、グレイソンの相手はレオポルドがすることとなった。
『おおっと!!速い速い!ニコラス王子とは違って、レオポルド王子は対人戦をあまりしていないとのことですが、そうとは思えない身のこなし!
やはり先祖返りの力は圧倒的!グレイソンも負けじと応戦しているが、素早いのに一撃一撃が重〜いレオポルド相手では分が悪いっ!!果たしてこの試合!どちらが勝つんでしょうか!?
セーラ、どうおも────』
『レオポルド王子一択ですっ!!!!』
『よ、予想外に激しい主張をありがとう……。
だがしかし、グレイソンも負けるなー!!二人とも頑張ってくれいっ!!!』
レオポルドは地下暮らしで体が鈍っているのかと思いきや、先祖返りの力で常人よりも身体能力が高いのか、いい動きをする。
先祖返りに忌避感を抱いていた者も、環境によりなんとなく恐れていた者も、今だけは、ただ純粋に熱い試合として固唾を呑んで見守っている。
そんなレオポルドの活躍を関心したようにルドヴィルクは見つめ、ロベッタ同様、親の顔になっていた。
『レオちゃん!そこよ!そこ!!』
『王妃殿下!おちついて〜おちついて〜!!』
「っ!」
グレイソンもなかなか奮闘したものの、一歩及ばず。
『勝者!レオポルド〜〜!!!』
残るはニコラスとレオポルドの試合のみ。
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