28 共通ルート終了1
『こほん。──すっかり見入ってしまい止めるのを忘れていましたが、これにて共通ルートは終了です』
なんだか懐かしい声だと、リリスティアは目を覚ました。
『お久しぶりです。人の子らよ』
目の前には、足首まで伸びたブロンド色の髪の女性──女神が立っていた。
しかし前回とは違い、何もなかった真っ白な空間には美しい湖と木々が生まれていた。
「あれだけ殺風景だったのに、どういう心境の変化かしら?」
しかも前回のリリスティアの不満が聞こえていたのか、今度は話せるようになっている。
これは……、夢の中という認識でいいのだろうか。
『自分へのご褒美的なやつです。……まあ、人の子を招くのにアレは少々何もなさすぎでしたが。
なんにせよお疲れ様です。おかげでアナタたちの活躍を楽しく見させてもらいました!』
少々どころではなかったと思いながら、リリスティアは隣にいたセーラを見つめる。
「騙し討ちのような形で転生させておいて、よく言うわ」
不機嫌そうなセーラの言葉に同調し、「女神様ってもっと偉大なもののように考えていたのだけれど、実物はそうでもないのね」と付け足す。
『あれ?ひょっとして女神の味方はいない感じ……?』
「「自業自得よ」」
『こ、……これでも一応女神なのにぃ〜!!』
美しいだけで、威厳の欠片も感じられない女神に、へりくだる気など起きなかった。
***
「こういうときの逆ハーレム狙いの子って、攻略対象にかわいこぶるのがテンプレだけれど、貴女は違うのね」というリリスティアの言葉に、セーラは少し苛立ちを含めた声で反論する。
「はあ?そんなイケカネを落とすような真似を、わたしがするわけないでしょ?」
「セーラはそんなことしない!」と目をギラつかせたセーラは、やはり解釈違いには厳しいようだ。好きな作品の登場人物に成り代わった苦労を感じる。
あまり刺激するのは悪手だと、リリスティアは曖昧に微笑み、「そういえば……」と続けた。
「キアレスを知らない?それから、アーロも」
「二人がどうかした?」
「いえ、しばらく顔を見ていなくて……だけど、誰も知らないっていうのよ。てっきりシナリオに関わっているのかと思ったのだけれど、少なくとも共通ルートには関係ないみたいだし……」
「さあ?私は知らないわ」
本当に心当たりがない様子で、けれど別になにか思うところがあるのか、セーラは「だけど……」と静かに呟いた。
「キアレスはともかく、アーロはよく死んじゃうみたいだから、目を離したら危ないわよ」
「…………え?」
いつの間にか死んでいるため、全キャラクリアした後でないと攻略できないのでは?という噂があったらしい。なんでも、発売後最速クリアを目指すタイプの人がそんなふうに言っていたんだとか。
(たとえクリアしていないとしても、個別ルートをやった人の言葉なら信憑性があるわね……)
また一つ心配事が増えたと、リリスティアはため息をついた。
(薄々不穏だとは思っていたけれど、死人が出るタイプの乙女ゲームだったのね。……先の展開がまったく読めないわ)
人攫いに人身売買が横行している国だ。何も不思議ではない。しかし、遠目で見る分には平穏そのもので、危険があるとしても大怪我くらいしか考えられない。死ぬだなんてそんな──。
(というか、女神ったら、そうそうバッドエンドにはならないって言ってたのに、アレ嘘じゃない。まったくもう、適当なんだから)
しかし、唯一可能性があるとすれば──、
──『君の返答次第では、君は勇者にだって罪人にだってなれるんだ』
(ニコラス王子のあの言葉……最悪死刑にするという脅しにも聞こえたわ)
やはり最も警戒するべきはニコラスだと、リリスティアはごくりと喉を鳴らした。
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