04 入学式1
柔らかな日差しと共に目を覚ました心地よい風の吹く今日この頃。
顔を洗い、制服に着替え校章を身に着ける。短くも少し癖のある柔らかな髪は落ち着いた紫色をしており、ここがもう日本ではないことを思い出させる。
いよいよ今日は入学式。
乙女ゲームのプロローグがついに始まるのだと、リリスティアは気合を入れた。
(ゲームではヒロイン目線だったから分からなかったけれど、これは…………すごい光景だわ)
校章の大群が列を作り、一斉に体育館に入って行く。自分もその一人なわけだけれど。と思いながらも攻略対象がいないかどうか視線を漂わせる。
(服装は自由と言っても、入学式は制服で来ている生徒がほとんどみたいね)
遅れてやってくるヒロインと攻略対象を除けば全員この場にいるはず。やはり真実の眼は必要だ。改めてヒロインの力ありきで成り立つ世界だと実感する。
「リリス様、自分メリルっす」
斜め後ろから肩を叩かれ、振り向くとそこにはメリルがいた。よく見分けがつくものだと感心していると、オーラが違うのだと返された。
顔見知り(顔は知らない)がいたことに安堵し、強張っていた顔がほぐれるのを感じる。
「あの……髪の毛変じゃないっすか?頑張って直そうとしてたんすけど、すぐに跳ねちゃって……。制服もちゃんと着れてるっすかね?笑われたりしないっすか?」
メリルは内緒話をするかのようにリリスティアに近づき、そっと耳元で囁いた。声は少し震えている。
それをリリスティアは笑いそうになるのを堪えながらにこやかに返す。
「服装はともかく、髪は私じゃわからないわよ」
「そ、それもそうでした」
「でもまあ、服は完璧よ。よく似合ってる」
「ほ、ほんとっすか!?……よかったぁ〜!」
メリルは脱力し、息を吐いた。試しに頭を触ってみるが鉄のような触り心地で校章そのものであった。他の生徒はワッペンのように薄い素材だったのだが、メリルは違う。しかし素材が違うのはメリルだけではないため、一概にメリルだけが特別とも言い難い。
「ふふ、心配性なのね」
「いえ、えっと…………」
「…………?」
「じ、じつは例の人が入学式にいるかもしれなくて。それで、その……」
ごにょごにょと恥ずかしそうにうつむく乙女のなんと可愛らしいことか。
「てっきり女性の方だと思っていたのだけれど、実は慕っている殿方だったりするのかしら?」
「ぴやっ!??」
「ふふ、そう。そうなのね。」
「ちが!いや、違くはない……っすけど!」
嘘はつけないのか、メリルはしゃがみ込むと顔を膝に埋めてしまった。
「大好きな彼を射止めるためにここまで追って来たのね。素敵なことだわ」
「そう言われると語弊が……」
メリルの話を聞くに想い人はよほど優秀なのだろう。きっと学園でも引っ張りだこなはずだ。メリルが他の女の子に取られないか心配になるのもおかしくはない。
「がんばってね。応援してるわ」
メリルの頭を撫で、リリスティアは微笑んだ。
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