閑話 布教活動(side女神)


「そうだ!アルくんも一緒に見ましょう!」


 女神がそう言うと、アルくんは虚を突かれた様子で目を見開いた。


「見るって……まさか」

「そうですよそうですよ!そのまさかです!!」


 アルくんの手を取り、女神の神域のさらにその奥深くまで引っ張った。

 そこは女神にとっての天国──乙女ゲームが大量に積み重なった、女神による女神のための趣味部屋だ。


「こっちがヒロインのセーラで、こっちがモブのリリスティアです。女神的にはセーラが優位だと思うんですけど、リリスティアの巻き返しにも期待できるかなぁと考えています。その辺、アルくんはどう思いますか?」


 何もない空間に映し出された映像にアルくんは目を瞬かせている。きっとこんなことができる女神を再評価しているのでしょう。しめしめとニヤつくのを押さえながら、女神はアルくんの返事を待った。


「……お主は本当に趣味が悪いのう」

「なっ!何度も言いますが乙女ゲームは叡智のけっ──」

「そっちじゃないわい」


 ぴしゃりと否定されたものの、どこがどう趣味が悪いのか、女神にはさっぱりわかりません。

 うんうんと唸る女神を見たアルくんは、「聞くに、小奴らにろくな説明もなしに転生させたそうじゃな」と言って座り込んだ。


「もし小奴らがここで死んだらどうなる?」


「そんなの、そのまま死んじゃうに決まってるじゃないですか。だいたいこの子たちは既に死んだ身。それを女神が拾い上げたんですから、どうするも女神の勝手ですよね?」


 女神にはそれだけの力があるのだから、人の子の一人や二人を好きに使っても問題ないはずだ。

 それに、ただそのまま終わるだけだった少女たちに転生という名の続き・・を与えたのだから、むしろ褒められるべきだと思うのです。


「そういうところを言っておるのじゃ」

 女神の言葉にアルくんは頭を抱えている。

 はて?そういうところとは?


「根は神の感性をしているというかなんというか……いつか人の子に刺されても知らんぞ」


 忠告はありがたいが、アルくんには言われたくない。女神が、「神らしくないアルくんがそれ言います?」と言うと、わざとらしいため息が返ってきた。




「そんなことよりも!予習も兼ねて、原作の方をやりましょう!!今すぐに!!!」


 イケカネのパッケージを取り出し、見せつける。

 「さあ!さあ!」と距離を詰め、アルくんの背後に壁を作った。もう逃げ場はありませんよ?観念してください……!


「しかし、わしはげーむは…………」

 しどろもどろに目を逸らすアルくんの瞳を女神は決して離さない。

 なにせ布教するチャンスだ。

 ここでゴリ押ししなくていつ布教するというのです!


「そんなこと言わずに!女神が解説してあげるので!!ね!?」


「う、うむ……」


 若干引き気味とはいえ、許可が下りた。

 それに女神はガッツポーズをきめる。

 

 さあ、楽しい楽しい布教活動の始まりです。



***


 とりあえす始める前に、簡単なキャラ紹介をするとしましょう。


 水をごくりと飲み干し、喉を潤す。

 そして喉が渇く前に、一気に捲し立てた。



「まずはこの国の第一王子のニコラス!甘くとろけるような美声と穏やかな口ぶりはまさに理想の王子様!!


 圧倒的人の心を掴む力を持っている彼は、まさに時期国王に相応しい器の持ち主……!アメリアという誰も敵わない恋敵がいようが心のなかで想うだけなら許されると、女性人気は衰えるどころかむしろその禁断さに勢いを増している!!!


 時々見られる不穏な空気を出してるのが、普段は穏やかで人の悪口も言わなさそうなニコラスだってのがポイント高い!!素晴らしいギャップです!!


 独占欲に晒されたい……私だけに歪な感情を向けてほしい……といったレディたちからの指示が凄まじい男!!!それがニコラスだぁ!!!!!」



「次は成り上がりの首席くん、エリク・スピーシア!


 エリクは孤児だった自分と孤児院の仲間たちの境遇を変えるために自力で這い上がってきたパーフェクトヒューマン!!


 その実力はニコラスにも認められており、将来性は既に確約されたも同然!!時期国王の右腕になると噂されるエリクには、当然縁談の申込みも後が立たない!

 なにせ、孤児であろうとエリクなら婚約してもいいという、両親からの許可をもらっているご令嬢も少なくはないのだから!!


 こんな完璧人間のエリクにもかわいいところが……?あるんです!!!

 エリクはお金がないから、服は良いものを数枚だけ買ってそれを何年も着回すタイプで、制服も中古で安く仕入れてそれをずっと着ています!あと、舐められないように眼鏡をかけているんです!わかります?この可愛さが???しかもネタとかじゃなく素でやってるとこがちょっとぬけててかわいいんですよねぇ」



「そしてお次はルカ・ホワイト!

 

 アルくんみたいに顔はわりと中性的な方なんだけど、中身が男前というかいい男というか……!


 転びそうになったところをさらっと受け止めて、『大丈夫か?……そうか、怪我がなくてよかった』とだけ言ってスマートに立ち去る!!その姿に男女問わずキュン死してしまうのだ!!!


 あ〜〜!!無意識的な行動なのか、指摘されるとバツの悪い顔をするのがたまんね〜〜〜!!!


 細身ながら引き締まった抜群のスタイルの持ち主であるルカの夢は茨の道であるファッションモデル!!


 子供の頃に出会った外国から来たというモデルお洒落さんに憧れてその道を目指すのだが、その中には"いなくなった彼にまた会えるかも"という淡い期待も含まれていた。

 しかしそのお洒落さんは政府の手によって既に消されていたのだ!そのことを知らないルカに待ち受ける運命とは──!??


 そんなルカの果てしない夢を叶えたい……力になりたいという献身的な女の子(男も含む)からの指示が高い男!それがルカ・ホワイトという男だ!!!」



「そしてそして──!!」


「ちょっと待つんじゃ!!!」

「へ?」


 徐々に熱が入りすぎたせいで紹介が長くなってしまった。しかし、ここからがいいところだというのにアルくんに止められてしまい、女神のテンションが下がっていく。


「そんなに一片に語られてもわからん。続きはまた今度聞いてやるから、今日はその辺にしといてくれ」


「次回…………」


 アルくんの言葉に、考え込む。

 次回ということは、次も女神の話を聞いてくれるということ。……それはとても、喜ばしいことだ。


「……フィアロッテ?」


 心配そうな顔でアルくんが見つめてくる。

 やだなぁ、女神が傷ついたんじゃないかって心配してくれたんですか?アルくんってば優しいですねぇ。


「はい!そうですね!次までにプレゼンできるよう、資料を準備しておきます!!」


 口がにやついて仕方がない。もしかしたらこの崇高な活動を理解してくれる神仲間が増えるかもしれないのだ。アルくんも喜んで──いると思いましたが、何故かアルくんは少し疲れたような顔をしていました。




「アルくんはどっちが勝つと思いますか?賭けましょうよ」

 

 セーラとリリスティアを指さしながら、女神は尋ねた。賭け事なんて経験はないが、こういう楽しみ方もアリかもしれない。

 

「女神がそんな調子では人の子らに示しがつかん」


「そう硬いことを言わないでくださ〜い」


 まったくもう!アルくんったら融通が利かないんだから!


 

 それでも同じ趣味を楽しもうとしてくれる存在ができたことが女神は嬉しくて、頬が緩んでしまうのだった。


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