閑話 女神の戯れ(side女神)
──異形頭と真実の鐘の音──
ヒロインと攻略対象たちが描かれたパッケージを眺めながら、女神はニマニマと幸せな気持ちに浸っていた。
「一旦様子見であの二人が出くわさないように細工しましたけど、予想外の展開ばかりで結構面白いですねぇ」
ゲームでは語られなかったストーリーの裏側を、リリスティア視点で見られて女神はとても満足している。まさかエリクルートのライバルポジションであるメリルを仲間に引き入れるだなんて!人の子は本当に予想外のことばかり起こしてくれます。
「そういえばエリクルートで最終的にメリルは死んでしまうんですよねぇ。アーロもよく死にますし……意外と重いんですよね、このゲームって」
ポテトチップスをつまみながら、ぼんやりとそんなことを考える。せっかくできたお友達だというのに、失うだなんてリリスティアが可哀想だ。
「………………でもゲームとしては面白いですよね?」
正直な話、そっちの展開も見てみたい。
そんな局面に立たされたリリスティアがどんな行動を取るのか純粋に気になるのだ。
「ん〜やり直しが効かないところがゲームとは違って困ったところではあるんですけど」
しかし逆に、その緊張感やリアリティが強みでもあるのだが。
上を向き、口を大きく開けて袋を傾ける。すると口の中にポテトチップスが流れ込んできて、気持ちのいい音を立てながら、胃の中に入っていった。
そしてそれをワインで流し込む。
「ぷはぁ〜!でもいい感じに目的が別れているようで安心しました。普通なら人間ルートを進もうとしますからね。女神も自分でやるとすれば人間ルート一択ですし」
異形頭ルートに進んで、せっかくのイケメンが見れなくなるだなんて、そんなのはイヤだ。女神的にイケメンはその美をもっと見せつけるものだという持論があるため、余計にそう思ってしまう。
イケカネにはバッドエンドというものが全体を通して一つしかない。キャラごとのエンディングは、人間エンドと異形頭エンドの二つだけで、分類としてはハッピーエンドもしくはトゥルーエンドになるだろう。
そんなプレイヤーに甘々な制作陣が唯一用意したバッドエンドは、逆ハーレムを狙った場合にのみ起き得る。
「セーラは逆ハーレムルートを進もうとしているようですが、失敗してバッドエンドにならなきゃいいですけどねぇ」
たとえ、もしそうなったとしても、また
「ふふふ、楽しみですねぇ〜」
暇を持て余す女神にとって二人の対決は、これ以上ない娯楽だ。
◇◆◇
「フィアロッテ。お主はまた妙な遊びを始めたそうじゃな」
女神と同じく神仲間であるアルトリスが女神の神域に遊びに来てくれた。
アルくんはおじいちゃんみたいな話し方をするが、見た目が若く中性的で、声も男性にしては高めなため未だにちぐはぐ感が否めない。
「妙とはなんですか妙とは」
人の子らに恥じない立派な乙女ゲーマーである女神は、乙女ゲームをプレイするのに忙しく、神域に引きこもりがちだった。そんな女神を心配したアルくんは時折こうして遊びに来てくれるようになったのだ。
「これは人の子らが生み出した宝を用いた、れっきとした実験です。まったくもう、上の古臭い連中はこの素晴らしい試みを理解できないんですから」
はぁ、と短く息を吐いた。
こんなことをアルくんに言っても意味がないとはわかっているのに、つい言ってしまうのは女神の悪い癖だ。
「お主は本当に女神らしからぬ面妖なやつよのう」
呆れたようにアルくんはそう言った。
言われなれているとはいえ、流石の女神でもムッとするものはムッとする。
「
せめて乙女ゲームのなんたるかを理解してから発言してほしい。
アルくんは人の子らの流行りには疎いため、ゲームが何なのかすら正しくは理解していないのだ。
「女神は、乙女を司る真の乙女です。そんな女神が乙女ゲームをやらないわけにはいかないじゃないですか」
いつものように「お主は別にそんなものを司ってはいないじゃろ」と言われるかと思いきや、アルくんは女神を本当に仕方のない子というような眼差しで見つめてくる。
「……はあ、そんな阿呆みたいなことをまだ言っておったのか」
「な!な!なっ!アホじゃないですぅー!乙女ゲームは叡智の結晶なんですぅー!!」
「わしは別にげーむを否定したわけじゃないぞ?お主を馬鹿にしただけじゃ」
アルくんのくせに!アルくんのくせに〜っ!!
後輩なら後輩らしく、先輩である女神を立ててくれてもいいじゃないですか!
「アルくんってばひどい!!」
「フィアロッテは阿呆じゃからのう」
そうやっていつも、自分は大人だって顔をする!
女神歴は女神の方が長いのに!大先輩なのに!!
「アルくんのっ!アルくんのばかぁ〜!!!」
そんな顔して笑うアルくんなんて……、アルくんなんて、女神は知らないっ!!
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