第二章
01 癒やしの時間
「リリス様久しぶりっすね。
忙しそうでしたけど、そっちはもういいんすか?」
そんなメリルの言葉に、リリスティアは思わず抱きついた。
「うわぁっ!?ど、どうしたんすかいきなり……!?」
「…………久しぶりのメリルだわ」
「え?えぇ、久しぶりのメリルっすよぉ」
突然のことだというのに、メリルは困惑しつつも、優しく抱きとめて、背中を撫でてくれる。
「なんだかとても疲れたの」
そう、疲れた。疲れたのだ。
前世の記憶が戻って、女神にヒロインと戦えと言われて、この国の内情を垣間見て、見つかるか見つからないかの緊張感を味わった。
なんだかんだいい友達くらいにはなれそうだと思った相手とも、自分の一方通行で振られた。
そんな連続した緊張の糸が切れたのか、疲れがドッと押し寄せてきたのだ。
「じゃあお疲れのリリス様のために、今度は自分の部屋でお茶会でもしますか?…………なんちゃって」
メリルの言葉に勢いよく顔を上げる。
もう少しで顔と顔とがぶつかる寸前だった。
「いいの!?」
「へ?」
「お友達の部屋でお茶会ね!とっても素敵……!」
「あ、あのぅ……リリス様落ち着いて……」
メリルにたしなめられながら、リリスティアの頭には花畑が描かれた。とても明るくて、眩しい光も差し込んでいる。
そんなリリスティアを見て、メリルは子供をあやすようにそっと背中を撫でる。
「ふふ、リリス様みたいにできるかはわかりませんが、自分なりに準備しておきます。……ですから今日はゆっくり休んでください」
確かに人がいないとはいえ、外で抱きつくなど自分らしくもない。なんだか急に恥ずかしくなってきたわ、と思ったもののリリスティアは離れるタイミングを逃してしまい、しばらくはそのままだった。
***
メリルと別れ、部屋に戻ると静かにベッドの上にダイブした。はしたないとわかってはいるものの、疲れからか体に力が入らない。
このまま靴も脱がずに寝てしまおうかと考えていると、「入ルゾ」という機械音が聞こえた。
「……フィッシュ?」
フィッシュは小さい体で高くジャンプし、扉を開けると、ガガガ……と歯車を回しながら、ぴょんぴょんとこちらに向かってくる。
「今度はちゃんと声をかけてから入ったのね」
返事を待ってはくれなかったけれど。とは思ったものの、「フン、オレハ学習ノデキル
「今日は何の用かしら?それともただ遊びに来てくれたの?」
以前は事務的なことでしか部屋に来てくれなかったのだが、魔石狙いではあるものの、たまに遊びに来てくれるようになったのだ。
そのことに距離が縮まったような気がして嬉しく思ったため、前にも増して魔石を与えるようになった。
(人間とは違って、食べすぎても体に現れないから、ついついあげちゃうのよね)
これが犬猫といった生物ならまた話は違うのだろうか。リリスティアはフィッシュの硬い頭を撫でながら、ペットを飼うってこんな感じなのかしら?とくすりと笑った。
「遊ビデハナイ。……ソレヨリモ、手ヲ差シ出セ」
フィッシュの言葉に、頭にはてなを浮かべながらも両手を前に出した。するとフィッシュは胸元をパカリと開き、何かを取り出した。
「フン、魔石ノ礼ダ。受ケ取レ」
そこ開くんだ、とか思ったよりも軽そうね、とか思うところはあったが、フィッシュからのお礼という魅力的な言葉に目を瞬かせた。
「いいの?」
「駄目ダッタラ、渡シテイナイ」
「ふふ、それもそうね」
フィッシュから渡されたかごの中には、わざわざ摘んで来たのであろう花やきのみたちが入れられていた。オートマタとはいえ、本物の鳥のようなラインナップだと思いながら、リリスティアは大切そうにかごを机の上に置いた。
「だけど、どうして急に?」
フィッシュたちオートマタの思考が人間寄りなのか動物よりなのかはわからないが、お返しをするという発想に至ったことにリリスティアは驚いていた。
もしかして友達だというカミールの入れ知恵かしら?と予想を立ててみたものの、どうやら違うらしい。
「……博士ニ、餌付ケヲサレテイタノガバレタ」
「えぇ!大丈夫だったの?」
「叱ラレタ。レディニオ返シモセズ、何ヲヤッテイルノダト」
(そっちなのね……)
叱るべきはそこではないだろうと思いつつも、フィッシュの話から推測するにかなりの女好きであるホルス博士ならそう返すだろうという謎の納得感もあった。
「オレハ人間ノ喜ブ物ハワカラナイガ、コレデ正解ダッタダロウカ?」
いつもと同じ機械音が、少し不安げに聞こえる。
それは技術の進歩かもしれないし、あるいはリリスティアがわずかな音の差で感情の違いを聞き分けられるほどに、フィッシュを理解したのかもしれない。
「…………えぇ、正解よ。とっても嬉しいわ」
「フフ、ソウカ。正解カ」
噛みしめるようにそう言うフィッシュは、やはり以前より感情的になったとリリスティアは思った。
「次モ期待シテイロ」
そう言ってフィッシュはぴょんぴょんと上機嫌に帰っていく。お礼を渡すためだけにここまで来てくれたのだと思うと、心に来るものがあった。
もったいなくて食べれそうにないと、リリスティアはかごを見つめ、目尻が下がった。
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