04 先祖返り
(どうして今まで思いつかなかったのかしら?)
アーロの生存確認をするにはマジホで配信を覗けばいいという初歩的なことに気づいたリリスティアは、" アーロ 配信 "と検索していた。
(最新投稿は昨日……よかった、とりあえずは無事みたいね)
"気づいたらよく死んでいる"というアーロから目を離すわけにはいかないと、リリスティアはどうにかしてアーロと手を組めないかと考えていた。
「──"先祖返り"──」
こんな配信もしているのね。
つい気になって手を止めてしまったのは先祖返りについての動画だった。真実の眼の力も先祖返りによるものだというし、ニコラスもとても重要視していたため見ていて損はない。
マジホの反対側のページに万年筆でカーソルを合わせ、動画を再生した。
『先祖返り……って知ってるかな?』
マジホ内のアーロがゆっくりと話し始めた。
『大昔に存在した魔族たちは人間と変わらない姿をしていたり、まったく違う姿をしていたりと様々だ。中には不思議な力──魔法なんかも有名だね。を持っている魔族もいた。君たちが今使っているマジホの中に組み込まれている魔石も、彼らの力と分類は同じなんだ』
内容が内容なため正確には比較することができないが、普段よりも落ち着いた話し方をしている。
『僕たちの中には彼らの血がほんのわずかだけど残っていて、極稀にその血を色濃く受け継いで生まれてくる人間がいる。……それが先祖返りだ。
先祖返りには先天的なタイプと後天的なタイプがいて、覚醒方法の共通性はまだ解明されていない。だけど魔力の強いところに近づくと力が増幅するっていう仮説がここ数年で最も有力だよ』
セーラはともかくとして、レオポルドは後天的なタイプに分類される。
学園の地下に行った時もリリスティアの目が痛んだのは、大量の魔石の持つ魔力に当てられて力の制御が効かなくなったのだとすれば辻褄も合う。
『……人と違うって怖いよね。僕も初めて鬼神の先祖返りを見た時は驚いたよ。知らないものは怖い、当然の感情だ』
先祖返りについての意見がコメントで流れている。
自分も先祖返りだとか、知り合いが先祖返りだとか。見えないだけで実は他にもいたのだ。
『だけど大昔に暴虐の限りを尽くした魔族と違って、彼らは人間だ。僕らとなんら変わらない、心を持った人間なんだ』
『だから先祖返りした子を怖がらないであげて?』
生まれながらに獣人の先祖返りだった赤子がいたのかもしれない。後天的にアンデッドの先祖返りへと覚醒した人間がいるのかもしれない。
もしかしたらこの国のシステムはそういった人間のために必要だったのかもしれないと、なんとなく思ってしまった。
(だからといって、真実を隠してまでやっていいことではないのだけれど)
臭いものに蓋をするように、隠し続けることで出てくる弊害もある。
アーロのこの配信は、この国が長年隠してきた闇に触れるきっかけとなるだろう。
(もしもアーロがこの国の闇に気づいているとしたら──?)
それならアーロがすぐに死んでしまうことにも納得がいく。
まるで革命家のようね。とリリスティアは寂しげに瞼をおろした。
『僕は皆にもっと色々なことを知ってほしい。知らないものを怖がらなくていいように。……僕が皆に届けるよ』
◇◆◇
「お、あん時の」
とある日のお昼時。リリスティアがラウンジの中の列に並んでいると、後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには、カタカタと骨を鳴らしながら回転する骸骨頭のルカが立っていた。
とりあえず上級生ではあるのだからと軽く会釈をする。それと同じようにルカも同じ動作をするも、やった後に首を傾げていた。
(そういえばこの世界にはお辞儀はないんだったかしら……?)
あったようななかったような。
前世の記憶を思い出す前のリリスティアがどう過ごしていたのかの記憶は曖昧で、詳しくは思い出せない。
「ルカホワ、知り合いでもいた?
──って君はキアレスと一緒にいた……!」
突然の大きな声に驚いてピクリと肩が跳ねた。
それをルカが嗜める。
「急に大声を出すんじゃねぇ。驚かせちまっただろ。
……大丈夫か?」
こういう気遣いがモテるんだろうなぁ、とか場違いなことを思いつつも、大丈夫だと返事をした。
すると、「ふ、……そうか」とふわりと目を細めるものだから、顔が見えずとも優しい声でノックアウトだというのに、顔を見てしまったリリスティアは瞬殺だった。
「ごめんごめん。ルカホワから行くのって珍しいからさ、つい気になっちゃって。ごめんね?驚かせちゃったよね」
「まあ、別の意味で大丈夫じゃないか」というアーロの言葉に全力で賛同しつつも、ルカは心当たりがあるのか顔を背けている。
これ以上アーロに話をさせると、自分の都合の悪い方向に話が進んでしまうと思ったルカは「前におまえを知らないかって聞いてきたんだよ」と言って話を反らした。
「僕を?」
「ああ。
……というか一つ言わせてもらうが、そもそもおまえが一方的に絡んでくるだけだってのに、配信のせいでまるで常日頃から仲がいいみたいに間違った情報がでてやがる。どうしてくれんだ」
ルカの頭を包むモヤが濁った紫色になり、目の部分もつり上がった。
「おい、聞いてんのか」というルカの声を聞こえてか知らずか、アーロはリリスティアを何処か含みのある眼差しで見つめている。
「へぇ、君が」
キアレスのこともあり、細められた目線にどう返すのが正しいのかがリリスティアにはわからなかった。
しかし直ぐ様いつもの配信スマイルに戻るとリリスティアに見せつけるように、ルカの肩を抱き寄せた。
「キアレスと仲良しさんなんだってね。僕たちとも仲良くしてくれると嬉しいな」
「おれは別に……」
「ね!?」
「…………」
そんな二人のやり取りを前に、リリスティアは曖昧に微笑んだ。
(ルカは何も知らないようだけれど、アーロは何か隠している。きっとキアレスとアーロだけの秘密があるのよ)
当然自分にも、前世とか転生とか人に言えない秘密があるため人のことは言えないのだが、キアレスはアレでいてかなりの秘密主義だ。プライベートなことを聞こうとすると、「そんなにおれのことが気になるンスか?リリスちゃんってば、ホントにおれのことが大好きッスねぇ」とからかわれるのだ。
アーロも配信者と言うわりに案外プライベートやパーソナルな部分は謎だったりする。
(こんな警戒してなさそうで、実は常時警戒心の塊みたいな男をどうやって味方にすればいいのよ……!?)
いっそのこと、全てを話して協力してくれるよう頭を下げようかとも思ったが、流石にそれは最終手段に取っておくことにした。
列が進み、もうすぐ自分たちの番だという時に、とても慌てた様子でメリルがこちらにかけてきた。
息を切らし、肩を上下させている様子から、相当重要な要件であることが伺える。
呼吸を整えるメリルを待ち、これから告げられる内容を思い、ごくりと喉を鳴らした。
数秒後、メリルは思い切り顔を上げて唾が飛びそうなほどの勢いで捲し立てた。
「たいへんっす!リリス様!!
第一王子と第二王子が女子生徒を巡って決闘するって!!!!」
────は?
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